20 聞けない話
「シオンさんもカサンドラさんを御存知だったのですね」
考えてみれば、レオナルドとシオンさん。それにカサンドラさんは同級生、知っているのは当然かもしれない。
「え? そうだよ。でもどうしてレティシアがカサンドラのことを知っているんだい?」
「それは……」
シオンさんの問いかけに答えようとした矢先。カサンドラさんがこちらに気づき手を振ると近づいてきた。
「まぁ、シオン様ではありませんか。ごきげんよう。それに……確かあなたはレティシアさんよね。お2人は知り合い同士だったのですね」
妙にカサンドラさんが丁寧な口調でシオンさんに話しかけてくる。
「そうだよ。レオナルドを通して知り合ったんだよ」
「レオナルド……なるほど、それで知り合いだったのですか。レティシアさんは彼の妹さんだものね」
カサンドラさんの言葉に、シオンさんは驚いたように一瞬私を見るものの頷いた。
「そうだよ。この夏季休暇中に知り合ったんだ。ね、レティシア」
笑みを浮かべてシオンさんは私を振り返る。
「はい、そうなんです」
「それで、レティシアさんは何故こちらに?」
カサンドラさんは私に興味があるのか話しかけてくると、何故かシオンさんが代わりに答える。
「レティシアは今年からこの大学に入学するんだ。彼女も俺と同じ、植物に興味があってね。それでハーブ菜園の手伝いをしてもらっていたんだ。今日から学食が再開したから、2人で食事に来たんだよ」
「まぁ、そうだったのですね。ではレティシアさんは私たちの後輩になるということね?」
じっと私を見つめてくるので、頷いた。
「はい、そうなります」
「ところで、レティシアさん。レオナルドは今どうしているのかしら?」
「え? レオ……い、いえ。兄は今家で仕事をしております」
妹として紹介していたので、慌てて言い直した。
「そうなの……やっぱり忙しいのね」
「はい、忙しいみたいです」
カサンドラさんはどこか寂しげに見える。
「でもレオナルドは妹思いなのね。あのレストランに行く位なのだから」
「そ、そうですね」
すると、シオンさんがカサンドラさんに声をかけてきた。
「カサンドラ、皆を待たせているんじゃないか?」
先程からカサンドラさんの友人たちがこちらをじっと見つめている。
「あ、いけない。それではシオン様、失礼いたします。あと……レティシアさん」
「はい、何でしょうか」
「レオナルドに、よろしく伝えておいてね? 大学で会えるのを楽しみにしているって」
そして、にっこり笑みを浮かべる。
「はい。分かりました」
「それでは、また」
カサンドラさんは一瞬、私をチラリと見ると友人たちの元へ戻っていった。
……もしかすると、カサンドラさんはレオナルドのことを……?
「食事が中断してしまったね。……折角の料理が冷めてしまったよ」
苦笑するシオンさん。
「大丈夫ですよ。冷めても美味しいですから」
料理を口にすると笑みを浮かべて返事をした。
「そうかい? なら良かったけど……まぁ、カサンドラは決して悪い女性ではないんだけどね……ただレオナルドが絡んでくると、周囲が見えなくなるところがあって……」
「……」
黙ってシオンさんの話を聞いていると、不意にシオンさんが真剣な顔つきになる。
「レティシア、カサンドラが君のことをレオナルドの妹と思っているようだけど?」
「……実は……」
私は偶然彼女と出会ったレストランでの話をした。その間、シオンさんは無言で話を聞いていた――
「そうか、それでカサンドラは君とレオナルドが兄妹と思っていたのか」
「はい。そうです」
「なるほど、それでレオナルドは……」
「え? レオナルド様がどうかしましたか?」
「いや、実は今日レオナルドに妹をよろしくと言われたからね。……でも、そういう経緯があったのか」
妙に納得したかのようにうなずくシオンさん。
「はい、それでカサンドラさんですけど……もしかして……」
そこで私は言葉を切った。
「え? 何だい?」
「い、いいえ。何でもありません」
「そうかい? 何でもないならいいけど」
シオンさんは再び食事を始める。そこで私も食事を口に運んだ。
カサンドラさんは、もしかしてレオナルドのことを好きなのだろうか?
そして、シオンさん……あなたは一体……?
けれど何故かためらわれて、尋ねることが出来なかった――
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