9章
1 新生活の始まり
あれから少しの時が流れ、9月になった。
――午前8時
「レティシア、良く似合っているわよ?」
祖母が姿見の前に立っている私の隣で笑みを浮かべる。
「ありがとうございます、おばあ様」
私は祖母にお礼を述べた。
今私が着ている服は、くるぶし丈まであるワンピースドレス。袖の部分はふんわり膨らんだパフスリーブで、襟と袖口にはレースが施されている。
このワンピースドレスは祖父母が新調してくれたドレスだった。
「この服を着て、入学式に出る日を心待ちにしていました」
そう、今日から『アネモネ大学』が始まる。そして入学式も行われるのだ。そこで昨日はグレンジャー家に泊めてもらっていたのだ。
「私もこの日を心待ちにしていたわ」
祖母が笑みを浮かべたそのとき。
――コンコン
扉のノック音とともに、祖父の声が聞こえてきた。
『レティシア、もう準備は出来たのか?』
「ええ、出来ているわよ。どうぞ」
祖母が返事をすると、扉が開かれてスーツ姿の祖父とレオナルドが現れた。
「おお! レティシア、とても良く似合っているぞ。うん、うん。やはりお前は何を着ても愛らしい。流石は我が孫娘だ」
祖父は部屋に入るなり、顔をほころばせる。
「ありがとうございます、お祖父様」
今日から私は大学生になる。そこで薄化粧もすることにしたのだ。
「まぁ。レオナルドったら、ひょっとしてレティシアに見惚れているのかしら?」
祖母の言葉で私はレオナルドを見ると、何故か目を見開いてこちらを見つめている。
「……レオナルド様?」
声をかけると我に返ったのか、ハッとした表情を浮かべるレオナルド。
「あ、ああ。祖父の言うとおりだ、本当に良く似合っているよ。……その……とても綺麗だ」
「あ、ありがとうございます」
おそらく社交辞令なのだろうが、美しい顔のレオナルドに言われて頬が少しだけ熱くなる。
「フフフ……それじゃ、レオナルド。今日はレティシアをよろしくお願いするわね。私たちは後から入学式に参加するから」
祖母がレオナルドに声をかけた。
「はい、分かりました。それでは一緒に行こう、レティシア」
「はい、レオナルド様」
レオナルドの言葉に私は頷いた――
****
馬車が走り始めるとすぐにレオナルドが話しかけてきた。
「レティシア、昨夜は良く眠れたか?」
「それが……緊張していたのか、あまり良く眠れませんでした」
「そんなに緊張することはないさ」
私の言葉にレオナルドが笑みを浮かべる。
「ええ、そうなのですが……この島は私の知らない人たちばかりなので、友達ができるかどうか……少し不安で」
出来れば楽しい学生生活を送りたい。私はまだこの島で同学年の友人と呼べるような存在がいない。
そのことに少しだけ不安を感じていた。
「大丈夫、友人なんてすぐに出来るさ。それに『アネモネ大学』に入学してくる学生の殆どは島外から集まってくるんだ。おそらく、ほとんどの新入生たちは互いに初対面だと思った方がいい。新入生だって今年は80人弱だと聞いている。きっとすぐに顔見しりになれるだろう」
「その話を聞いて、少し安心出来ました」
思わず、ほっとため息をつく。
「ああ。何も心配することはない。それにいざとなったら、俺だっているし……シオンもいる。困ったことがあれば、いつでも頼るといい」
「はい、ありがとうございます」
その後も私は、レオナルドから『アネモネ大学』について色々話を聞かせてもらった。
馬車が大学に到着するまで――
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