2 レオナルドへのお願い
私たちを乗せた馬車が大学に到着した。
「降りようか? レティシア」
先に馬車を降りたレオナルドが手を差し伸べてきた。
「ありがとうございます」
手を借りて馬車を降りると眼の前に建つ大学を見上げた。……今日から私はここに通うことになるのだ。
感慨深い思いで見つめていると、レオナルドが声をかけてきた。
「入学式は講堂で行われるんだ。そこまで案内するよ」
「いいんですか? レオナルド様だってクラス発表があるのではありませんか?」
「大丈夫だ。クラス発表ならすでに掲示板が張り出されているだろうから。それよりもレティシアの方が心配だからな」
そして笑顔を向けてくる。
「では、お願いします。案内をして頂けますか?」
「よし、行こうか」
「はい」
そして私たちは講堂へ向かった――
**
「あの、レオナルド様。……一つお願いがあるのですが」
歩きながらレオナルドに話しかけた。
「お願い? どんなお願いだ?」
「大学内では、私とレオナルド様は兄妹という関係にしておいてもらえますか?」
「……兄妹……?」
少しだけ寂しそうな眼差しで私を見つめるレオナルド。何故かその顔を見ていると申し訳ない気持ちが込み上げてくる。
けれど……
「あ、あの。私……カサンドラさんに、レオナルド様のことを兄だと伝えているんです。あの方はおそらく私とレオナルド様は本当の兄妹だと思っています。だから……その、大学内では私は妹ということで……お願いします」
「え……? そうだったのか?」
レオナルドの目が見開かれる。学生食堂でカサンドラさんと会ったことは既にレオナルドに伝えてはいたが、妹として名乗ったことは報告していなかったのだ。
本当の兄妹ではないのに、嘘をついてしまった後ろめたさのために。
「……はい。お伝えするのが遅くなってしまって申し訳ありません。カサンドラさんに嘘をついてしまったことが申し訳なくて……」
「いや、気にすることはない。……確かに本当のことを告げるには、少々込み入った話になるからな。わざわざレティシアの内情を説明する必要も無いし……あまり他の人たちに知られたくもないだろう?」
「はい、その通りです」
レオナルドの言葉に頷く。
「分かった。レティシアの言う通りにしよう。それでは大学内では俺のことを『お兄様』と呼ぶといい」
「ありがとうございます、『お兄様』」
少し照れくさい気持ちでレオナルドを見上げる。
「……それじゃ……俺も、レティと呼んでも……構わないか?」
真剣な目でレオナルドが見つめてくる。
「え? ええ、勿論です」
「そうか、ありがとう。レティ」
途端にレオナルドの顔に笑みが浮かび、足を止めた。
「着いたよ、ここが講堂だ」
「ここが……講堂……」
南国の木々が立ち並ぶ芝生の上に講堂はあった
円形の白い建物に、ドーム状の青い屋根は何ともいえず可愛らしかった。屋根のてっぺんには白い十字架が立っている。
「十字架……?」
何故十字架が立っているのだろう? 不思議に思っているとレオナルドが説明してくれた。
「実は、この講堂は教会も兼ねているんだ。……希望すれば、結婚式も挙げることが出来るようになっている」
「結婚式ですか? 大学の講堂で?」
「ああ。現にこの大学の卒業生や観光客が結婚式を挙げているんだ」
講堂を見つめながらレオナルドが語る。
「そうですか。でも、こんな素敵な建物で結婚式を挙げられるなんて、ロマンチックですね」
「俺もそう思うよ」
2人で講堂を見つめていると、新入生らしき人たちが次々と建物の中に入っていく。
「お兄様、そろそろ私も行きますね」
「ああ、またな。レティ」
互いに手を振ると、私はレオナルドに見送られながら講堂へと向かった――
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