18 祖父の提案 2
「お前の話を聞いて、つくづくあの男には嫌気が差した。……ルクレチアを裏切り、心の病にさせただけではなく、お前にまで酷い環境を押し付けおって」
「ええ、本当にその通りよ。仮にもあなたの父親だから悪くは言いたくないけれど……ルクレチアだけでなく、レティシアまで苦しめていたのだから。もうあの家に戻るつもりはないなら、いっそ戸籍を抜いてしまいなさい。私達の正式な養子になりましょう?」
「おじい様……おばあ様……」
まさかカルディナ家の戸籍を抜いて、グレンジャー家に養子に入るなんて。
思いもかけない提案に私は戸惑うばかりだった。あの家を出る決意はあったものの、戸籍を抜こうとは考えてもいなかったからだ。
「どうなんだ? レティシア。もはや愛人とその娘にしか愛情を注がない父親など不要だろう? カルディナ家にお前の戸籍を入れておく意味は無い。お前の最低な婚約者だって同じだ。必要ないだろう?」
祖父が真剣な目で私を見つめてくる。
「あの、いきなりの話で驚いてしまって……確かに婚約者とは終わらせようと思っていましたが、籍を抜くまでは……」
「まぁ確かにいきなりの話かもしれないが、でもお前の話を聞いた直後から我々は考えていたんだ。二度とあの家には戻らないのだろう?」
確かに、覚悟を決めて私はあの家を出た。出たつもりだったのに……父のことが頭から離れないのは何故だろう? 祖父母から父の話を聞かされただけで……胸が苦しくなるのは一体……?
もしかして、私は心の何処かで父の愛情を今も欲しているのだろうか?
私が黙ってしまったのを見て、祖母が声を掛けてきた。
「ごめんなさいね、レティシア。いきなり養子縁組の話を聞かされても驚くのは無理もないわね。すぐに返事が欲しいとは言わないわ。でも前向きに考えて置いて貰いたいの。絶対に悪い話では無いことは約束するわ」
「は、はい。分かりました……あの、ところでレオナルド様はこの話をご存知なのでしょうか?」
彼は後継ぎのいないグレンジャー家に養子に入った。この家を継ぐために。
けれど祖父母の正当な血を引き継ぐ私が養子になることに抵抗は無いのだろうか?
もし、レオナルドが反対しているなら養子縁組の話は断ろう。
「レオナルドも勿論この話は知っているわ。レティシアの養子縁組を歓迎すると言っていたわ」
「そうなのですか?」
良かった。
少なくとも私は彼に拒絶されてはいないのだ。迷惑に思われていたら、あまりこの家のお世話にもなれないと思っていただけに安心した。
「うむ、それでだが……もし、養子縁組の話に抵抗があるなら、もう一つ別の提案があるのだが……聞く気はあるか?」
「もう一つの提案ですか? 教えて下さい」
妙に思わせぶりな言い方をする祖父。けれど、養子縁組は父への裏切りのような気がして少し気が重かった。
まだ別の提案があるのなら、聞いてみたかった。
すると祖父はゴホンと咳払いした。
「……もう一つの提案というのは他でもない。それは……」
「あなた。待って」
そこへ祖母が話を遮ってきた。
「何だ? 一体どうした?」
「もう少し、この話は後にしましょう? レティシアはこの島に来たばかりなのだし」
すると祖父は考え込む素振りを見せた。
「う、うむ……確かにそうかもしれんな……」
「あの……?」
「いや、何でも無い。今の話は忘れてくれ」
声をかけると祖父が笑みを浮かべた。
「はい、分かりました」
そう、このときの私はまだ何も知らなかったのだ。
祖父母の考えを――
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