4 私の事情 ④
午後2時――
エントランスで私は父の隣に立って、義理の母になるイメルダ夫人とフィオナが現れるのを待っていた。その背後には大勢の使用人たちも集まっている。
「お父様……」
緊張する面持ちで私は父を見上げた。すると父は私を見ることもなく、語る。
「レティシア、同じ年齢だとしてもお前はフィオナよりも半月はお姉さんなのだ。例え半分しか血が繋がっていなくとも二人は紛れもない姉妹だ。親切にしてあげなさい。イメルダのことも受け入れるのだ。カルディナ家の娘として、恥じるような態度は取ってはならない。分かったな」
「はい……お父様……」
私はできれば父の口から謝罪の言葉が欲しかった。
お母様が亡くなったばかりなのに、すまない。突然このようなことになって悪かったと……
期待外れの言葉に、私の心はますます暗い気持ちになってくる。
そのとき――
目の前の大扉がゆっくり開かれ、父の執事が二人の女性を連れて現れた。
二人は美しいホワイトブロンドの髪の持ち主で、最近流行りのドレスを着用していた。
「イメルダ! それにフィオナ! 待っていたぞ」
父が今まで見たこともないような笑みを浮かべて、両手を広げて二人の前に進み出てきた。
「あなた! やっとここに来れたわ」
「お父様、お久しぶりです!」
二人は父の元に駆け寄ると、三人は私の見ている眼の前で熱い抱擁を交わす。
その姿がどれほどショックだったか、おそらく父は気づいていないだろう。
私は生まれて一度も父から笑いかけられたこともなければ、抱きしめてもらったこともない。
それは決して望んではいけないことだと思っていたから。
なのに、これは一体どういうことなのだろう?
三人は私をそっちのけで、仲睦まじげに話をしている。その姿は本当の家族のようで、私は1人蚊帳の外だ。
お父様……
きっと、お母様は今の私のような気持ちをずっとずっと持ち続けていたのだろう。
悲しみとも苛立ちともつかない複雑な気持ちを押し込め、私はギュッと両手を強く握りしめ……思い切って声を掛けた。
「あ、あの……はじめまして。私はレティシア・カルディナと申します。ようこそ、おいでくださいました」
すると父が二人から離れ、私に一瞬視線を移すと二人に私を紹介した。
「イメルダ、フィオナ。私のもうひとりの娘だ。これから家族として仲良くやってくれ」
もうひとりの娘……!
まるで、私はおまけの娘のような父の物言いにショックで自分の顔が青ざめるのが分かった。
すると、イメルダ夫人が私に視線を移した。
「あら、ルクレチア様に似ていると思ったら……やはり、彼女の娘だったのね?」
「え……? 母を御存知なのですか?」
その言葉に耳を疑う。
「ええ、当然でしょう? 何しろ彼女と会ったことがあるのだから」
「!」
思わず顔をこわばらせた時――
「はじめまして、レティシア。私はフィオナよ。あなたのことはお父様からよく聞かされていたわ。とても勉学が得意なのですって? どうぞこれから仲良くしてね」
人懐こい笑みを浮かべたフィオナが私に近づいてくると、手をギュッと握りしめてきた。
父から……よく私の話を聞かされていた?
私はあなた達のことを何一つ聞かされたことがないのに?
思わず、すがるような視線を父に向けてハッとなった。なぜなら父とイメルダ夫人が私を刺すような視線で見つめていたからだ。
きっと……これはフィオナと仲良くするようにとの忠告なのだろう。
「え、ええ……こちらこそ、どうぞ仲良くしてね?」
私はそれだけ言うのが精一杯だった――
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