10 不機嫌なイザーク

 その後、私達は皆でイザークとヴィオラが宿泊しているホテルに全員で向かい、チェックアウトを済ませた。


 そして次は……


「これからレティの住んでいる家に行くのね。今からとても楽しみだわ」


ヴィオラが笑顔で私に話しかけてくる。


「でも、まだ引っ越しを終えたばかりだからほとんど物が無いの。だから驚くかもしれないわ」


「それくらいで驚かないから大丈夫よ」


クスクス笑うヴィオラに対してイザークは深刻な顔つきをしている。


「それよりもレティシア。一人で暮らすなんて大丈夫なのか? 危険じゃないのか?」


イザークが心配そうに尋ねてくる。するとレオナルドが言った。


「この島が何故観光地として人気があるか分かるか? 勿論景色が美しいことが一番の理由だが、それだけじゃない。治安が良いことでも有名なんだ。ここ数年、犯罪が起こったこともない。それにレティシアが住む家のすぐ近くには警察の駐在所もあるしな」


「そう……なのか?」


驚いた様子でイザークが私を見る。


「ええ、そうなの。私も引っ越してきた時驚いたのだけど、すぐ近くに駐在所があって警察官の家族が住んでいるのよ?」


たまたま自転車で近くを通りかかったとき、駐在所があるのを見たときは驚きと同時に、何故あの場所に祖父母が家を立てたのか分かった気がした。


「そうだ、だから安心していい。それに近いうちに、電話もひこうかと考えていたんだ。そうすればグレンジャー家とすぐに連絡が取れるだろう? 何も心配することなんか起こらないさ。むしろ、『リーフ』よりも安全だと思ってもいい」


レオナルドがイザークに笑みを浮かべた。


「……っ」


イザークは何故か悔しそうにレオナルドを見ている。……気のせいだろうか? 何故か二人の間にある種の緊迫した雰囲気を感じるのは。


「レオナルド様は本当に『アネモネ』島を誇りに思っているんですね。でも分かる気がします。だって、本当に素敵な場所ですから」


そしてヴィオラが窓の外に目を向けた。窓からは青い空にエメラルドグリーンの美しい海が太陽の光を浴びてキラキラと輝いている。


「ええ、私もこの景色が大好きなの。海も素敵だけど、町並みが特にお気に入りなの。まるで絵本の中の世界のように見えるのだもの」


ヴィオラの言葉に頷いた時、ふと視線を感じた。見ると、イザークが悲しげな顔で私を見つめていたのだ。


「イザーク……? どうかしたの?」


「……いや、何でも無い」


そしてフイと彼は視線をそらせてしまった。何だかイザークはいつにもまして不機嫌に見える。

私が何も告げずに、この島に来たことに対してやっぱり怒っているのだろうか?


後で、二人きりになれる時間を作って……イザークにきちんと謝って許しを得よう。よく考えてみれば、私はかなりイザークのお世話になっていた。

けれど、あのときは心に余裕が無くてそのことに気づけなかったのだ。


イザークが怒っているのも無理ないかも……


私は心の中でため息をついた。



「あ、そろそろレティシアの住んでいる家が見えてくるぞ」


窓の外の景色を眺めていたレオナルドが声を掛けてきたので、私達は全員窓の外に目を向けた――





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