9 楽しい予感

「君たちはどこのホテルに宿泊しているんだ?」


レオナルドがヴィオラとイザークに尋ねた。


「はい、私達は『サンセット』通りの一番街のホテルに今宿泊しています!」


ヴィオラが元気よく答える。


「「え?『サンセット』通りの一番街?」」


私とレオナルドの声が重なる。


「それがどうかしたのか?」


イザークが不思議そうに尋ねてきた。


「ええ……そこのホテルは私が初めてこの島に来たときに宿泊していたホテルだったの」


「そうだったのか? そうだ……今、レティシアは何処に住んでいるんだ? ひょっとして……?」


イザークは意味深な目を何故かレオナルドに向ける。


「レティシアは今、彼女の母が昔住んでいた一軒家に住んでいるよ」


私の変わりにレオナルドが答えた。


「え? それじゃ今レティは一人で暮らしているの?」


ヴィオラが驚いた様子で私を見る。


「ええ、そうなの。自分ひとりの力で……この島で暮らしてみたかったから。始めはアパートメントを借りようかと思っていたのだけど、グレンジャー家の人たちが私に母がかつて使っていた家をプレゼントしてくれたの」


「レティシアはグレンジャー家にとって、大切な孫娘だからな」


レオナルドが頷く。


「そう……か……そんなにレティシアの決意は硬かったのか」


「イザーク? どうかしたの?」


イザークがポツリと呟く。何故かその姿は酷く傷ついて見えたので声を掛けた。


「いや、何でも無い」


フイと視線をそらせるイザークをじっと見つめるヴィオラ。……やはり、この二人の間には何かがあるのかもしれない。


「ところでこれは俺からの提案なんだが……ふたりとも、もし良ければ今宿泊しているホテルを出て、グレンジャー家に滞在しないか? 一週間はいることになるのだからその方がいいと思わないか?」


「え? でも、それではご迷惑じゃありませんか?」


ヴィオラが戸惑った様子でレオナルドに尋ねる。イザークは余程驚いたのか、呆然とした表情でレオナルドを見つめている。


「迷惑なんてことはない。屋敷は広くて部屋も余っているんだ。それに祖父母も賑やかなことが好きな人たちでね。大歓迎してくれるだろう。レティシアもついでに泊まるといい。親しい友人たちと一緒にグレンジャー家で過ごすのも良いと思わないか?」


レオナルドが笑顔を私に向けてくる。


「そうですね……」


それはとても素晴らしい提案に思えた。現に、ヴィオラは目をキラキラさせて私をじっと見つめている。

私自身、この素晴らしい『アネモネ』島で楽しい時を過ごせたらと考えていたのも事実だ。


「でも……私もお世話になってよろしいのでしょうか?」


「当然だろう? 君はグレンジャー家の正当な血を引く孫なのだから。レティシアがまた滞在すると知れば、祖父母も大喜びするさ。……勿論、君も来るだろう?」


レオナルドは先程から無言だったイザークに声を掛けた。


「……」


イザークは少しの間口を閉ざしていると、ヴィオラに肘で小突かれた。


「では……俺もよろしくお願いします」


「よし、なら決まりだな。それじゃ、まずは二人の宿泊先のホテルへ向かおうか?」



こうして私はヴィオラとイザークと共に、再びグレンジャー家でお世話になることが決定した。


これから、何かワクワクすることが起こりそうな気がする。


そう思うと、私の胸は自然と高鳴るのだった――


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