2 残された人々 イザークの場合 2

  門の外を出ると、学園の直ぐ側にある辻馬車乗り場へ急いだ。



「すみません! 『リーフ学園』の学生服を着た女子学生を見かけませんでしたか!?」


俺は辻馬車乗り場で客待ちをしている御者達に声を掛けて回った。しかし、彼らは誰一人、学生服を着た女子学生など見てもいないと首をふるばかりだった。


「そ、そんな……」


レティシアは……辻馬車を利用したんじゃなかったのか?」


その時――


一台の辻馬車が戻ってきた。どうやら客を乗せて戻ってきたところらしい。あの人物に尋ねても、見ていないと言われたらどうしよう。

不安な気持ちを抱えつつ、戻ってきた御者に声を掛けた。


「すみません、『リーフ学園』の学生服を着た女子学生を見ていませんか?」


すると思いがけない台詞が返ってきた。


「女子学生なら乗せましたよ」


「え!? 本当ですか! それで何処まで乗せたんですか?」


「港ですよ。でも……何だか随分思い詰めた顔をしていましたね。誰かの見送りにでも行くのかなと思いましたよ」


「港……」


それじゃ、まさかレティシアは船に乗ったというのか……!?


「どうかしましたか? 随分顔色が悪いですよ」


男性御者が心配そうに声を掛けてきた。


「い、いえ……大丈夫です。ありがとうございました……」


お礼を述べると、重たい足取りでフラフラと学園へ足を向けた。


「レティシア……」


港まで行ったところで、もうレティシアを探すことは不可能だ。『リーフ』の港には世界中の船が集まってくる。当然集まる人の数も相当数だ。


「探すなんて……不可能だ……」


門をくぐり抜けたところで、ヴィオラが息を切らせながら駆け寄ってくる姿が目に入った。てっきりセブランも一緒だと思ったのに姿はない。


「イザーク!」


俺も彼女に駆けつけると、二人で花壇の前で合流した。


「ヴィオラ、セブランはどうしたんだ?」


「それが見つからなかったのよ……てっきりさっきと同じ場所にいるかと思ったのに、何処にも姿が見えなかったの。もしかして場所を変えたのかもしれない……本当に何て酷い人たちなの!」


ヴィオラが半分泣き顔になる。


「……仕方ない。あんな奴にそもそも伝えたって無意味だったんだ。それよりもヴィオラ。どうやらレティは港に向かったようだ。彼女を乗せたという御者がいたんだ」


「え! そ、そんな……! それじゃもう捜せないじゃない! 海を越えたなんて……そんなにここからいなくなりたかったの……? 絶対、レティシアが逃げたのはセブランとフィオナのせいに決まっているわ!」


俺は黙って悔しがるヴィオラの言葉を聞いていた。

レティシアは誰にも捜してもらいたくなくて、行き先を告げずに出ていった。あの様子ではきっと書き置きすら残していないだろう。


「もう……レティシアを捜すのは諦めなくちゃいけないのかしら……」


諦める? レティシアを?


「……駄目だ」


俺はグッと唇を噛んだ。


「イザーク……?」


「絶対にレティシアを捜すのを諦めるものか。俺は絶対に捜し出してみせる。そのうえで、彼女が家には戻りたくないって言うなら……無理に連れ帰らない。ただレティシアが無事で暮らせていることだけでも確認しないと……!」


「イザーク……それじゃ……」


「俺は個人的にレティシアを捜し出すが、例え、見つかってもセブランたちには知らせない」


「私も手伝うわ」


「ヴィオラ……」


「イザーク。あなた……レティシアのことが好きなんでしょう? 大切なんじゃないの?」


俺は何も言えなかった。


「私もそうよ、レティシアは大切な友人よ。だから彼女の無事をこの目で確かめたいの。だから手伝わせて」


「分かった。一緒にレティシアを捜そう」


ヴィオラは俺の言葉に頷いた――



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