第5章

1 残された人々 イザークの場合 1

「ちょっと! イザーク、どこに行くのよ!」


理事長室を出た俺の後をヴィオラが追いかけてくる。


「決まっているだろう? レティシアを探しに行くんだよ!」


「探しに行くって……家に戻ったわけじゃ……」


「ヴィオラ、本気でそんなこと言ってるのか?」


「……」


並んで歩くヴィオラは口を閉ざしてしまった。


「本当は気づいているんじゃないのか? 大体大学入学手続きの取り下げをレティシアが自分でしてくるってことは……」


「ま、まさか家出……」


ヴィオラはハッとした顔になる。


「ヴィオラ。まさか……何か心当たりあるのか?」


俺は足を止めてヴィオラを見た。


「心当たりと言うか……今日は何だかレティの様子がおかしかったの……」


「おかしかった? どんなふうに?」


「どんなふうにって言われても……何処か思いつめたような……それにね、別れ際の様子も変だったのよ。卒業パーティーの準備があるのに、花壇の様子が見てみたいからって……そして花壇に向かう途中、突然私の名前を大きな声で呼んだの」


「そうなのか? でも何故?」


「それがね、ちょっと名前を呼んでみたかっただけだって……ま、まさかあれは私に対するお別れの台詞だったのかしら……?」


ヴィオラが真っ青になる。


「落ち着け、ヴィオラ。他にレティシアのことでなにか思い当たることはないか?」


「まだあるわ。遠くへ行くのだったら、どこへ行きたいって以前聞かれたの」


「何だって?」


その言葉に自分の背筋が寒くなるのを感じた。


「だから私……言ったの。親戚が住んでいるところか、もしくは自分が住んでみたい国へ行くのもいいかもって」


「親戚か……自分の住んでみたい国……」


「くそっ!」


俺は再び走り出した。門を出てすぐにレティの姿は見えなくなった。もしかするとすぐに馬車に乗った可能性がある。


「待ってよ! イザーク!」


追いすがるヴィオラに言った。


「ヴィオラ! お前はセブランに伝えてこい! レティが家出したって! 俺は彼女を探しに行く!」


「探すって……あてでもあるの!?」


ヴィオラが泣きそうな顔で叫ぶ。


あて? そんなのあるものか。俺はレティのことを殆ど知らない。だけど、なにかしら彼女はヒントを残していた。

あの言葉は……恐らく、誰でもいいから自分の行き先の見当をつけてもらいたという気持ちの現れだった……俺はそう思いたかった。


「とにかく、俺に考えがある! 早くセブランに知らせてきてくれ!」


「わ、分かったわ!」


ヴィオラは返事をすると、再びパーティー会場へ向かって走っていく。


「遠くへ行くだって……?」


レティは予めこの日に家出することを決めていたんだ。誰にも相談すること無く……あえて卒業式を狙ったのは、せめて高校だけは卒業したかったからにちがいない。


「くそっ!」


俺は再び走り始めた。向かった先は……言うまでもない。


彼女の姿を見失った、あの門だ――!

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