15 温かい家
夕食後――
結局その日は祖母に屋敷に泊まるように強く勧められ、私はお言葉に甘えることにした。
「さぁ、このお部屋よ。気に入ってくれると良いのだけど」
祖母に案内されて通された部屋は淡い水色で統一された広々とした部屋だった。家具もベッドカバーもカーテンも……とても上品で私はこの部屋が気に入ってしまった。
「……素敵なお部屋ですね」
「気に入ってくれたかしら? この部屋はルクレチアが使っていた部屋だったのよ」
その言葉に驚いた。
「え!? 母が使っていた部屋だったのですか……?」
そんな大切な部屋を私に使わせてくれるなんて。
「ええ、そうよ。あのこが嫁ぐまで……使っていた部屋なの」
おばあ様の声は何処か寂しげだった。私は母の娘ではあるけれども、その母を苦しめた父の娘でもある。
その私に母の部屋を……
「あの、本当によろしいのですか? 私のような者の為に母の部屋を使わせてくれるなんて……」
すると祖母が眉をひそめた。
「レティシア。話をしているときに感じたのだけど、何故貴女は自分を卑下するような言い方をするの? 貴女はルクレチアの娘であり、大切な私達の孫娘だからこの部屋を使って欲しいと思っているのよ?」
大切な孫娘……
今まで私のことを大切だと言ってくれたのは親友のヴィオラだけだった。けれど、ここではおばあ様もおじい様も私のことを大切だと言ってくれる。
それがどれほど嬉しかったことか。
「……嬉しいです。ありがたく使わせて頂きます」
鼻の奥がツンと痛くなるのを我慢しながら祖母にお礼を述べると、何故か突然抱きしめられた。
「おばあ様……?」
「レティシア。何があったのかは……一切聞かないし、貴女がここにいることは誰にも知らせないわ。遠慮せずに好きなだけここにいてもいいのよ?」
「ありがとうございます……おばあ様……」
私は祖母の背中に手を回し、温かい胸に顔を押し付けて少しの間静かに泣いた――
****
21時
――コンコン
母の部屋で窓から見える星を眺めていると部屋の扉がノックされた。
「はい?」
扉を開けると、驚いたことに部屋の前に立っていたのは祖父だった。
「……ゴホン。レティシア、少し……話をしないか?」
「はい、おじいさま」
「部屋で何をしていたのだ?」
「窓から『アネモネ』島の星を眺めていました」
「そうか、なら中庭へ行こう。星がよく見えるからな」
「はい」
そして私は祖父に連れられて中庭へと向かった。
****
グレンジャー家の芝生の敷き詰められた中庭はとても広く、視界を遮るものが無かった。空には満天の星が輝きを放っている。
「まぁ……本当に素敵な星空ですね」
「気に入ったか?」
「はい、とても気に入りました」
笑顔で返事をすると祖父が咳払いした。
「ゴホン! レティシア……レオナルドから聞いたのだが……仕事を探しているそうだな?」
「はい、ここで自立して生活するために落ち着いたら仕事を探そうかと思っています」
「そうか……なら……どうだろう? レオナルドの仕事の手伝いをしてみないか?」
「え……?」
「グレンジャー家はこの島の観光業のまとめ役を担っているのだ。……仕事は多岐に渡る。お前がレオナルドを手伝って貰えれば助かるのだがな」
「おじい様……」
きっと祖父は私に仕事を与えてくれようとしているのだろう。けれど……
「ですが、家まで頂いておきながら……その上、お仕事まで紹介して頂くわけには……」
「まぁ、お前が重荷だと感じるなら自分で仕事を探すのも良いだろう。そのうえで……万一、仕事が見つからなければ、レオナルドの手伝いをするというのはどうだ?」
それは私にとって、すごく魅力的な提案だった。
「では……その方向でお願いできますか?」
「ああ、そうしなさい」
祖父はこのときになって、初めて少しだけ笑みを浮かべた――
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