14 団らんの食卓
馬車がグレンジャー家の屋敷に到着し、私はレオナルドの案内でダイニングルームに通された。
すると、既にお祖母様が椅子に座って私達が来るのを待ってくれていた。
「いらっしゃい、レティシア。よく来てくれたわね?」
お祖母様は立ち上がると、すぐに私のそばへ寄ってくると手を握りしめてきた。
「こんにちは、おばあ様。本日は夕食にお招き頂き、ありがとうございます。あの……このような身なりで伺って申し訳ございません」
上品なベージュ色のデイ・ドレスを着たお祖母様の前で、まるで町娘のような服装の自分が少し恥ずかしい。
「あら? 何を言ってるの? とても良く似合ってるわ。レオナルド、あなたもそう思うでしょう?」
「はい、レティシアには既にそう伝えていますから」
「あら? そうなのね。フフフ……」
祖母は何故か意味深に笑うと、私に視線を移した。
「さ、それでは食事にしましょう。掛けて頂戴」
「はい、おばあ様」
祖母に促され、着席しようとした時レオナルドが椅子を引いてくれた。
「どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
今までそのようなことをしてもらったことが無かったので、ためらいながらお礼を述べると着席した。
そして祖母とレオナルドも着席した時――
「お、おい! これは一体どういうことだ!」
突然扉が開かれ、慌てた様子の祖父がダイニングルームに現れた。
「あら、おかえりなさい。あなた」
「おじい様、お帰りなさいませ」
おばあ様とレオナルドが交互に挨拶したので、私も立ち上がると挨拶した。
「おじい様、お邪魔しております」
「レ、レティシア……」
うろたえた様子のおじい様におばあ様が声を掛けた。
「あなた、何をなさっているのです? 早く着席してくださいな」
「あ、ああ……」
お祖父様はうろたえながらも私の向かい側の席に着席する。すると、そのタイミングを見計らったかのように、給仕のフットマンたちが現れて豪華な食事を並べていく。
「さて、では全員揃ったところで乾杯しましょうか? レティシア。貴女はワインは飲めるのかしら?」
グラスに注がれたワインを手にしたおばあ様が尋ねてきた。
「はい、少しなら頂けます」
「そうなのね? では皆グラスを持って頂戴」
おばあ様は上機嫌で私達を見渡した。そしてそれに従う私達。気難しいと言われているおじい様が素直に従い、グラスを手にしたときは少しだけ驚いてしまった。
「それでは、レティシアと私達家族が会えたことをお祝いして乾杯しましょう?」
そして私達はグラスを掲げた――
「どうだ? レティシア。美味しいか?」
おじい様が本日五回目の「美味しいか?」を尋ねてきた。
「はい、おじい様。どの食事も全て美味しいです。お招き頂き、本当にありがとうございます」
それは心からの言葉だった。あの家では確かに皆でテーブルを囲んでの食事だったけれども、誰も私のことをこんなふうには気にかけてくれなかった。
私は……本当にあの屋敷では孤独だったのだと改めて感じた。
お父様……何故なのですか……?
「あら? どうかしたの? レティシア」
不意に声をかけられ、顔を上げるとおばあ様が心配そうに私を見ている。
「もしかして口に合わなかったのか?」
おじい様が尋ねてくる。
「レティシア?」
レオナルドがじっと私を見つめている。
「いえ、こんなふうに会話をしながらの食事って……幸せだと感じたからです」
「レティシア……まさか、お前。あの父親に……?」
するとおじい様が眉をひそめた。その声には少し怒気がまざっている。
「あなた、よしてくださいな」
それをおばあ様が止め、私に声を掛けてきた。
「レティシア、遠慮しないで沢山お食べなさい?」
それはとても温かな声だった。お母様も……心が壊れていなかったら、こんなふうに優しく声をかけてくれたのだろうか?
「はい、ありがとうござます」
目頭が熱くなりそうになるのをこらえて、私は料理を口に運んだ――
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