29話 シオンと婚約者
ソファに座ると、私達は改めて話を始めた。
シオンさんの話によると、本日グレンジャー家を訪ねたのはレオナルドに婚約と大学を辞めることを告げたかったからだということだった。
隣に座るアンジェラ様は本当に控えめな女性で、シオンさんが話をしている間一言も口を挟むことは無かった。
ただ、黙ってシオンさんを見つめている。その様子から、どれだけシオンさんのことを思っているのかが分かった。
レオナルドは相槌を打ちながら最後までシオンさんの話を聞き終えると、残念そうな表情を浮かべた。
「それにしても、本当に突然の話で驚いた。まさか大学を途中で辞めることになるとは思わなかったな」
するとアンジェラ様が会話の中に入ってきた。
「そうなのです。私も実は驚いているのです。私と婚約が決定した後に大学を辞めると言ってきたのですから。でも卒業まで1年もありません。なので、どうぞ卒業までは大学に通って下さいと申し上げたのですが……」
アンジェラ様は申し訳無さそうに俯くと、シオンさんはアンジェラ様の膝の上に置いた手に自分の手を重ねた。
「気にすることはないよ、アンジェラ。俺がそうしたいと思って決めたことだから」
「シオン様……」
以前の私だったら、二人のこの姿に傷つき……叶わぬ恋に胸を痛めていただろう。
けれど、今の私は違う。
自分が本当に好きな相手が誰だったの気付くことが出来たから。そして、その人と互いの気持ちが通じ合っているのだから。
シオンさんはアンジェラ様の手を繋ぐと、私達に自分の心情を語りはじめた。
「婚約者を1人国に残して、自分だけ大学に通う真似はしたくなかったからね。一時はアンジェラをアネモネ島に呼ぶことも考えたけれども、彼女はルミナス侯爵家という名家の女性だ。やはり正式に結婚するまでは御両親の元に居させてあげたい。だからこの際、大学を辞めることにしたんだよ。それに元々親に無理を言って通わせてもらっていたからね」
「そうだったのか……」
レオナルドがため息をつき、一瞬私に視線を送る。
やはり、レオナルドは私が傷ついているのではないかと心配しているのかもしれない。
なので私は、笑顔でシオンさんに話しかけた。
「本当にシオン様は、アンジェラ様のことを大切に思っていらっしゃるのですね。とても素敵なことだと思います。結婚式はいつ挙げられるのですか?」
私の話にアンジェラ様の顔が赤く染まる。
「え? け、結婚式ですか? まだ……先の話になるのではと思っていたのですが……」
するとシオンさんがアンジェラ様に笑顔を向けた。
「そうだな。父が亡くなってまだ間もないから、今すぐにとはいかないが……来年、喪が開けたら結婚式を挙げることにしないか?」
「今の話は本当……ですか?」
アンジェラ様が驚いたようにシオンさんに尋ねる。
「本当だよ」
シオンさんは頷くと、次に私達に声をかけてきた。
「結婚式には、二人に招待状を送るよ。……その時は、来てもらえるかな?」
「勿論行くさ」
「はい。是非参加させて下さい」
レオナルドと私が頷くと、「良かった」と言ってシオンさんは嬉しそうに笑みを浮かべた――
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