28話 彼の不安

「……レティ、大丈夫か?」


2人で応接室に向かっているとレオナルドが尋ねてきた。その顔色は酷く青く見える。


「はい、私なら大丈夫です。レオナルド様の方こそ大丈夫ですか? 顔色が悪いようですけど?」


「いや、俺なら大丈夫だ。心配してくれてありがとう」


レオナルドは笑みを浮かべて私を見るも、無理に笑っているように感じてならなかった。

一体どうしてしまったのだろう?

確かにシオンさんが婚約者の女性を連れてグレンジャー家を訪ねてきたことには、正直驚いている。

けれど、私がもう傷つくことはないのに……。


私は隣を歩くレオナルドの横顔をそっと見つめた――



応接室の扉は開け放たれており、ソファに座るシオンさんと女性の姿が見えた。


「お待たせ、シオン」

「失礼いたします」


レオナルドに続いて私も応接室に入ると、シオンさんが一瞬驚いた様子で私を見つめる。けれど、直ぐに笑顔になると席を立った。


「久しぶり。レオナルド、それにレティシア」


「ああ、久しぶりだな」

「お元気そうで何よりです」


レオナルドに続いて挨拶をすると、女性が驚いた様子で声をあげた。


「まぁ! あなたは……」


「え?」


改めて女性を見ると、今度は私が驚く番だった。何故なら、その女性は昨日大学で私の自転車を見つめていた人物だったからだ。


「え? もしかして2人は知り合いどうしなのかい?」


「そうなのか? レティ」


シオンさんとレオナルドが私と女性に尋ねてくる。


「いえ……。知り合いという程のことでは無いのですが……」


「また、あなたにお会いできるとは思いませんでしたわ。はじめまして、私はアンジェラ・ルミナスと申します。この度、シオン様の婚約者になりました。どうぞよろしくお願いいたします」


アンジェラ様は丁寧に挨拶をしてきた。

それはとても優雅な身のこなしで、彼女が身分の高い女性であることが良く分かった。


「はじめまして、アンジェラ様。レオナルド・グレンジャーと申します。この家の当主を務めております」


「私は、レティシア・グレンジャーと申します。どうぞよろしくお願いいたします」


レオナルドに続いて私も挨拶をするとアンジェラ様が尋ねてきた。


「グレンジャー……? それではお二人は兄妹の関係でいらっしゃるのですか?」


「そうだよ、シオンとレティシアは……」


シオンさんが説明しようとしたその時。


「俺はグレンジャー家の養子ですが、レティシアはこの家の実子です。そして俺たちはこの度、婚約しました。2人と一緒ですね」


そしてレオナルドは私の手を握りしめてきた。


「え?」


その言葉にシオンさんは目を見開き、アンジェラ様は笑顔になる。


「まぁ、そうだったのですね? 私達と一緒ですね。おめでとうございます」


「お、おめでとう」


シオンさんは戸惑っているようだ。


「ありがとう」


レオナルドは返事をし、私に視線を向けてきた。

その視線は……何処か、縋り付くように見える。


まさか、レオナルドは……?


そこで私はシオンさんとアンジェラ様に視線を移した。


「ありがとうございます。アンジェラ様。シオン様。レオナルド様と婚約できて幸せです。お2人も御婚約、おめでとうございます」


そして繋いでいた手を握りしめた。


レオナルドを安心させてあげるために――

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