27話 突然の訪問者
――16時半
私とレオナルドは、荷造りを行っていた。
「レティ、これで持っていく荷物は全てなのか?」
レオナルドの足元には大きなキャリーケース2つに、ボストンバッグが置かれている。
「はい、そうです。元々この家には必要な物は全て揃っていましたから」
私がグレンジャー家に持って行く荷物は着替えに刺繍道具。そして大学で使う教科書や文具、書籍程度だった。
「そうか、なら一緒に家に帰ろう。お祖父様とお祖母様が俺達の帰りを待っているだろうから」
「はい、レオナルド様」
そして、私は数ヶ月お世話になった母の家を後にした――
****
「ところで、レティ。手芸店でのアルバイトは続けるつもりなのか?」
馬車が走り出すと、向かい側に座っていたレオナルドが尋ねてきた。
「はい、続けます」
「そう……か」
少しだけレオナルドの顔が曇る。
「あの、もしかして私のアルバイトに反対なのでしょうか? レオナルド様が私に辞めてもらいたいと思っているのなら、ヘレンさんにお話して辞めさせていただきます。ただいきなりですとヘレンさんに迷惑をかけてしまうので……少しお時間を頂けますか?」
レオナルドがアルバイトに反対するのなら、続けるわけにはいかない。ヘレンさんには申し訳ないが、レオナルドの考えを優先したかった
するとレオナルドは慌てた様子を見せた。
「い、いや。別にアルバイトに反対というわけではないんだ。ただグレンジャー家からアルバイト先は少し遠いだろう? レティは自転車でアルバイトに通うつもりなのだろう?」
「はい、そうですね」
「アルバイトが終わる時間は夕方だろう? そうなると帰り道が心配なんだ。だからもしアルバイトを続けるつもりならグレンジャー家の馬車で通ってくれないだろうか?」
真剣な眼差しで私を見つめるレオナルド。
本当に私のことを心配してくれているのだ。それがとても嬉しかった。
「はい。レオナルド様の仰るとおりにします。それではアルバイトに行くときは馬車を使わせていただきます」
「レテ……ありがとう。そう言ってもらえて良かった。」
レオナルドは安心したように笑い……その後は馬車がグレンジャー家に到着するまで2人で色々な話を続けた。
レオナルドとの会話は楽しく、彼の側は居心地が良いことを改めて私は感じるのだった――
****
馬車がグレンジャー家に到着し、レオナルドの手を借りて馬車を降りると、すぐに扉が開かれ、少し慌てた様子でフットマンが現れた。
「お帰りなさいませ、レオナルド様。レティシア様」
「ええ、ただいま」
「ただいま。……随分慌てているようだが、何かあったのか?」
レオナルドはフットマンに尋ねた。
「はい。実はレオナルド様を訪ねて2人のお客様がいらしているのです。今、応接室でお待ちになっておられます」
「2人の客だって? 一体誰なのだろう……」
「シオン・ラッセル様と、婚約者の女性です。レオナルド様に大切なお話があるそうです」
「何だって!? シオンが……!?」
レオナルドが青ざめた顔で私に視線を移す。
「レティ……」
私の手を握りしめるレオナルドの手が震えている。もしかしてレオナルドは私がシオンさんと会って、傷つくのを恐れているのだろうか?
もう、私がシオンさんに恋心を抱くことは無いのに……。
そこで私は安心させるためにレオナルドの手を握りしめると、驚いた様子で私を見下ろす。
「レオナルド様、シオンさんと婚約者の方をお待たせしてはいけません。応接室に行きましょう」
「……そうだな、行こうか」
レオナルドは笑みを浮かべると、私の手を握り返してきた――
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