26話 気がかりだったこと
キーンコーンカーンコーン……
本日の授業が全て終わると、隣に座るノエルが話しかけてきた。
「ねぇ、レティシア。今日この後、もし暇なら私の部屋に来ない? 実家から名産品のクッキーが送られて来たのよ」
「……ごめんなさい。誘ってくれるのはとても嬉しいのだけど、今日は約束があって駄目なの」
「あ……! そうよね……今日はレオナルド様とデートするのね? 気が付かなくてごめんなさい」
「いいえ、違うの。デートとかではないのよ。今日はレオナルド様と引越作業をすることになっているの。私、グレンジャー家の屋敷で暮らすことにしたのよ」
慌てて首を振った。
「それじゃ、一人暮らしをやめるってこと?」
「ええ、そうなの」
「でも、どうして突然引っ越しなんて……あ、さてはレオナルド様ね? もしかして一人暮らしをしているレティシアが心配なんじゃないの?」
「そ、そんなところかも……」
思わず顔を赤らめると、ノエルが笑った。
「本当に幸せそうね。レティ、初めて会ったときよりもすごく綺麗になったもの。やっぱり恋をすると変わるのね」
「き、綺麗になったなんて……私は何も変わらないわ」
そう、本当に綺麗なのは……フィオナのような女性のことを言うのだから。
「レティシア? どうかしたの?」
「いえ、なんでもないわ」
「あ、ごめんなさい。引き止めちゃったわね、レオナルド様が待っているんでしょう? 早く行ってあげたら?」
「ええ、ごめんなさい。この穴埋めは必ずするわね」
私は席を立った。
「穴埋めなんていいのよ。それじゃ、また明日ね」
「ええ、また明日」
ノエルに手を振ると、急ぎ足でレオナルドとの待ち合わせ場所へ向かった――
****
朝、別れた場所に行ってみると既にレオナルドが馬車の前で待っていた。
「レティ!」
レオナルドは私を見ると笑顔で手を振ってくる。
「すみません、レオナルド様。お待たせいたしました」
「そんなことはないさ。レティを待たせたくはなかったから、授業が終わってすぐにここへ来たんだ。それに……待っている時間も、その……幸せな気分でいられたし……」
顔を赤らめるレオナルド。
昨日まで、全く気付かなかった。
まさか、レオナルドがそこまで私のことを思ってくれていたなんて……。
「……そんなふうに言っていただけるなんて……嬉しいです……」
恐らく、私の顔も赤くなっているだろう。するとレオナルドが私の手を繋いできた。
「それじゃ、行こうか?」
「はい、レオナルド様」
返事をすると、繋いでいた手に力がこめられた――
****
2人で向かい合わせに馬車に乗ると、すぐにレオナルドに声をかけた。
「あの、レオナルド様……少し、お聞きしたいことがあるのですが……よろしいですか?」
「何だい?」
穏やかな声でレオナルドが返事をする。
実は、 今日一日私はカサンドラさんのことがずっと気がかりだった。
2人は同じ授業を多く選択している。当然、顔だって合わせているはずだ。
気まずい思いをしたのではないだろうか……と、気がかりでならなかったのだ。
「カサンドラさんとは……本日お会いしましたか?」
「勿論、会ったさ。カサンドラとは共通の授業が多いからな」
「そうですか……あの、カサンドラさんとお話はされましたか……?」
「勿論、話をしたよ。レティと正式に婚約をしたってね」
あっさりと答えるレオナルド。
「え!? もうお話したのですか!?」
「ああ。カサンドラには……真っ先に報告するべきだと思ったんだ」
「カサンドラさんは何て言っていましたか?」
「おめでとうと言われたよ。カサンドラも正式に婚約が決定し、卒業と同時に結婚するらしい」
「そうだったのですか……」
その話を聞いて、私は途端に罪悪感がこみ上げてきた。
恐らく、カサンドラさんは本気でレオナルドを好きだったに違いない。そうでなければ、あんな台詞を私に言うはずなどないだろう。
「どうかしたのか? レティ?」
レオナルドが心配そうな表情を向けてくる。
「いいえ、何でもありません」
笑顔で首を振ると、今の自分の正直な気持ちを告げることにした。
「レオナルド様、私……今、とても幸せです」
「レティ……」
「俺もだよ、レティ」
レオナルドは私の手を握りしめ、柔らかな笑みを浮かべてくれた――
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