25話 察しの良い友人
馬車が大学に到着し、レオナルドの手を借りて降りた。
「レティ。早速だが今日一緒にルクレチア様の家に行って荷物の整理をしないか?」
「え? 今日……ですか?」
まさかいきなり今日引っ越しを提案されるとは思わなかった。
「やはりレティシアの一人暮らしは心配でたまらないんだ。……駄目か?」
未だにレオナルドは私の手を握りしめたまま、真剣な目で見つめてくる。
本当に私のことを心配してくれているのだ。
そのことが嬉しかった。
「分かりました、では本日引っ越しすることにします」
「本当か? ありがとう」
レオナルドが笑顔を見せたそのとき――
「レティシアーッ!」
背後から私を呼ぶ声が聞こえて振り向くと、ノエルが大きく手を振りながら駆け寄ってきた。
「おはよう。ノエル」
「おはよう」
私に続いてレオナルドがノエルに挨拶する。
「おはよう、レティシア。レオナルド様もおはようございます」
そしてノエルは何処か意味深な表情で私とレオナルドを交互に見つめる。
「ところで、お二人とも……こんなところで、手を繋ぎ合って何をしているのですか?」
「え……?」
「あ」
レオナルドの手は私の右手を握りしめたままだった。
慌てた様子でレオナルドは手を離すと、少しだけ顔を赤く染めた。
「そ、それじゃ俺は授業に向かうよ。15時半にここで待っているから」
「はい、レオナルド様」
レオナルドは手を振ると、去って行った。
「ふ〜ん……」
ノエルが腕組みして私を見つめる。
「な、何かしら?」
「レオナルド様ねぇ……いつの間にお兄様から呼び名が変わったのかしら?」
「あ、そ、それは……」
思わず顔が赤くなる。するとノエルは笑顔になった。
「さては……2人は恋人同士になったのね?」
「こ、恋人同士というか……婚約することに……なったの……」
あんなにシオンさんのことで泣いたばかりなのに、いきなりレオナルドと婚約なんて話……。軽蔑されたりしないだろうか?
けれど、ノエルの反応は思っていたのとは違った。
「婚約!? もうそこまで話がいったのね? でも良かった……おめでとう、レティシア」
「え……? 私のこと……軽蔑しない……の?」
「何故レティシアを軽蔑しなくちゃいけないの?」
ノエルが驚いたように目を見開く。
「だって、シオンさんの件で……あんなに泣いたのに……」
するとノエルが肩をすくめた。
「確かにそうだけど、でも初恋なんてそんなものじゃない? 初恋を経験したからこそ、本当の恋を見つけられたんじゃないかしら? レオナルド様という最愛の人をね?」
「初恋……?」
そんな。
私は今までずっと、セブランが初恋の相手だと思っていた。幼い頃から、ずっと側にいてくれたから……おじ様とおば様が私をセブランと将来結婚することを望んでくれていたから。
でも、それは私の思い込みだっただけなのだろうか?
本当の初恋の相手は……シオンさんだった……?
「どうしたの? レティシア。ぼーっとしちゃって。さてはレオナルド様のことを考えていたわね?」
「え、ええ。そうなの」
咄嗟に自分の気持ちをごまかした。
「やっぱりね〜。なんて言ったって、あれだけ素敵な人だもの。レティシアが羨ましいわ〜」
そうだった。確かノエルはレオナルド様に好意を寄せていたのだった。
「……ごめんなさい、ノエル」
「え? 今度は何故謝るの?」
「だって、ノエルはレオナルド様のこと……」
「え? やだ! 入学式のこと言ってるの? あんなのは忘れてよ! それは確かに素敵な人だとは思ったけど、別にどうこうなりたいと思って言ったわけじゃないのよ。それに今だから正直に言うけど、本当に2人は兄妹の関係なのかなって疑っちゃったんだから」
「え!? そうだったの?」
まさかノエルに気付かれていたなんて。
「ええ、そうよ。だって、レオナルド様がレティシアを見つめる目……あれは、完全に恋する目をしていたもの」
「え……?」
「ひょっとして、全く気付いていなかったの?」
何処か呆れた顔をするノエル。
「え、ええ……全然気付かなかったわ……」
「そうだったの……それはレオナルド様、きっと辛かったはずだわ……」
その言葉に何も言えなかった。
今までレオナルドはどんな気持ちで私に接してくれていたのだろう?
「あ、ご、ごめんなさい。私、余計なこと言っちゃったみたいね」
ノエルが慌てて謝ってきた。
「ううん、いいの。教えてくれてありがとう。でも私……今までのこと、レオナルド様にお詫びしたいわ……」
「別にお詫びなんていいんじゃないかしら? だってレオナルド様の幸せは、レティシアが側にいてくれることなんじゃないの?」
「私が……側に……?」
「ええ、そうよ」
そのとき、レオナルド様の言葉が耳に蘇ってきた。
『俺は少しでも長く、レティの側に……いたいんだ……』
レオナルド様……。
「そうね。私、レオナルド様の側にいるわ」
「それが一番よ。それじゃ教室に行きましょう」
「ええ。行きましょう」
そして私とノエルは2人で教室へ向かった――
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