24話 レオナルドの頼み
翌朝――
いつものように4人で朝食をとっていた。
昨夜、ベッドに伏していた祖父は驚くほど元気な姿で食欲旺盛な姿を見せていた。
「ハッハッハッ。やはり、幸せな気分で食事をすると普段以上に美味しく感じられるな」
「ええ、そうね。2人もそう思うでしょう?」
祖母が私とレオナルドに話しかけてくる。私とレオナルドは一瞬互いの視線を合わせると交互に頷いた。
「ええ、そうですね」
「私も同じです」
すると祖父はますます笑顔になると、尋ねてきた。
「ところで2人とも、婚約式はいつにする?」
「え! 婚約式ですか?」
その言葉に驚いた。
婚約式など考えてもいなかったからだ。セブランと婚約をしたときでさえ、そのような話は出なかった。
ガゼボで、紫のバラの花束をプレゼントされて婚約の申し出をされただけだった。
「そうですね。レティ、いつがいい?」
レオナルドが私を見つめる。まさか、レオナルドも婚約式のことを考えていたのだろうか?
「婚約式だなんて、考えてもいませんでした。そんなに大げさなことをされなくても大丈夫です」
「あら? 婚約式はしなくてもいいと言うの?」
怪訝そうな顔を浮かべる祖母。
「はい。大丈夫です。そうですよね? レオナルド様」
「レティがそう言うなら……」
「まぁ良いだろう。何しろ、婚約するのはレティとレオナルドなのだからな。2人でどうすれば良いか話し合って決めると良い」
「「はい」」
祖父の言葉に、私とレオナルドは返事をした――
****
私とレオナルドは大学へ向かう馬車に揺られていた。
「……」
向かい側に座るレオナルドは一言も喋らず、じっと私の顔を見つめている。それがやけに気恥ずかしかった。
「あ、あの……レオナルド様。何か御用でしょうか……?」
するとレオナルドは一瞬ハッとした表情を浮かべ、次に笑顔になった。
「あ……ごめん。レティと気持ちが通いあえたことが嬉しくて、つい見つめてしまっていたんだ。昨夜はありがとう。俺は今、とても幸せだよ」
朝日に照らされたレオナルドの笑顔はとても美しかった。
「レオナルド様……」
まさか、そこまで私のこと思っていてくれたなんて……。
「い、いえ。私の方こそ……幸せです。あ……ありがとうござい……ます」
恐らく、私の顔は恥ずかしくて真っ赤に染まっていることだろう。
その顔を見られたくなくて、俯きながら返事をする。
「ところでレティ」
「はい」
話しかけられて顔を上げた。
「その、今レティはルクレチア様の家に住んでいるけれども……引き払って、グレンジャー家でずっと暮らすつもりはないか?」
「え?」
するとレオナルドは席を立つと、私の隣に座ってきた。
「昨夜、レティは夜道を自転車に乗ってグレンジャー家に来ただろう? 何事も無かったから良かったが、途中には鬱蒼と茂った林の中も通らなくてはならない。夜道は危険だとは思わないか?」
「確かに、そうですね……」
あの時はレオナルドのことが気がかりで、必死になって自転車をこいできた。けれど、今にして思えば少々無謀だったかもしれない。
「もう、そんな危ない真似はさせたくない。それに……俺は少しでも長く、レティの側に……いたいんだ……」
レオナルドが少しだけ頬を赤らめながら、私の手を握りしめてきた。
「レオナルド様……」
この島に来た時は、自立して生活していくことが目的だった。
けれど今、目の前には相思相愛の人がいる……。
あの家で1人で暮らすことに、もう意味は無いのかもしれない。
「分かりました。でしたら家は引き払ってグレンジャー家で暮らすことにします」
「本当か?」
レオナルドの目が見開かれる。
「はい、本当です。私も、少しでもレオナルド様のおそばにいたいですから」
そう、この気持ちに嘘は無い。
「ありがとう……レティ」
レオナルドの手が、私の頬にそっと添えられる。
「レティ……好きだ」
「私もです……」
レオナルドの顔が近づいてきたので、目を閉じると唇が重ねられた。
私達は馬車の中で、何度もキスを交わした――
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