30話 気持ちに区切りをつけて
「それじゃ話も終わった事だし、そろそろ帰ろうか。アンジェラ」
「はい、シオン様」
2人が席を立ったのでレオナルドが驚いた。
「え? もう帰るのか?」
「ああ、21時の船に乗ることになっているからね」
そこで私たちはエントランスへ向かった――
****
屋敷の前には既に馬車が待機していた。
「お忙しいのにわざわざ来て下さり、どうもありがとうございます」
馬車の前に立った2人にお礼を述べると、アンジェラ様が声をかけてきた。
「レティシア様、アネモネ島はとても素敵な島ですね。私、とてもここが気に入りました。また遊びに来ても良いでしょうか? それと……レティシア様さえよければ、私とお友達になって下さいませんか……?」
そして恥ずかしそうに私を見つめる。
「はい、またお越しください。お待ちしておりますね? 私もアンジェラ様とお友達になりたいです」
「良かったな、アンジェラ。ずっと自転車の女性のことを気にかけていたから」
シオンさんがアンジェラ様の肩に手を置く。
「え……? そうだったのですか?」
私はアンジェラ様を見つめた。
「はい、自転車に乗れるなんてとても素敵です。私も乗れるように練習しますね」
「頑張ってくださいね。アンジェラ様」
話が一段落すると、シオンさんが馬車の扉を開けた。
「それじゃ、帰ろう。アンジェラ」
「はい、シオン様」
アンジェラ様が先に馬車に乗り込むと、シオンさんは私とレオナルドに振り返った。
「2人とも、元気で」
「ああ」
「はい、シオンさん」
シオンさんが私に目を向ける。
「レティシア……その……」
「?」
首を傾げた途端、レオナルドに右手を握りしめられた。するとシオンさんが一瞬ハッとした表情になり…‥次に笑顔になった。
「ゼラニウム、大切に育てているよ。ありがとう」
「そうですか。それは良かったです」
するとシオンさんは次にレオナルドに声をかけた。
「レオナルド、俺の分まで勉強頑張ってくれ」
「……ああ。分かった」
シオンさんは小さく頷くと馬車に乗り込むと、すぐに馬は走り始める。
夕日の中に溶け込むように走り去って行く馬車を私とレオナルドは手を繋いだまま見送っていた。
やがて、馬車が完全に見えなくなるとレオナルドが声をかけてきた。
「レティ……」
「はい?」
名前を呼ばれて、レオナルドを見上げ……驚いた。
レオナルドがどこか思いつめたような表情で私を見つめていたからだ。
「どうしたのですか? レオナルド様」
「すまない、話の途中だったのに……突然手を握りしめてしまって」
繋いでいたレオナルドの手が震えている。
「いいえ、そんなことありませんが……どうしたのですか?」
「……不安だったんだ。もしかすると、レティの中にはまだシオンに対する思いがあって、再会すればまたシオンのことを好きになってしまうんじゃないかと……」
「レオナルド様……」
レオナルドの目は不安げに揺れている。
私が本当に好きな男性はレオナルドだ。けれど、今も彼をこんなに不安にさせてしまっているなんて……。
そこで私は繋いでいるレオナルドの手に、自分の左手を重ねた。
「大丈夫です。シオンさんを目の前にしても、以前のような気持ちにはなりませんでしたから。私が好きな人はレオナルド様です」
そう、私の気持ちは完全に区切りがついた。
私が心から愛する男性はレオナルド、ただ一人なのだと。
「レティ……」
レオナルドは一瞬、驚いた様に目を見開き……そのまま腕を引かれて強く抱きしめられていた。
「ごめん、少しでもレティの気持ちを疑うような真似をして……悪かった」
私の髪に顔をうずめるレオナルド。
「いいえ、謝らないで下さい。私の方こそレオナルド様を不安な気持ちにさせてしまって申し訳ありません」
私たちは、少しの間夕日に包まれながら互いの身体を抱きしめあうのだった――
※次話、最終章です
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