終章 2人の門出 1

――あれから2年の歳月が流れた。


その間に色々なことがあった。

まずはシオンさんとアンジェラ様の結婚。この時はレオナルドと一緒に出席し、2人の結婚を心からお祝いした。

翌年、アンジェラ様は可愛らしい男の子を出産された。そこで私はお祝いに産着を

縫ってプレゼントを送り、とても喜んでもらえたのだった。


また、カルディナ家でも大きな動きがあった。

それは流刑島に送られたイメルダ夫人の死の報せだった。


イメルダ夫人は過酷な環境下で囚人として働かされ……流刑島に送られた翌年、肺炎を悪化させて亡くなってしまった。

夫人の最期を看取った看守の話によると、最後まで反省する様子を見せなかったという。


「私は……何も……悪く……ない」


その言葉を残して、息を引き取ったという。


修道院で暮らしているフィオナのもとにも、父親であるアンリ氏が直接報せに行った。

しかし母親が死んだことを告げてもフィオナの顔色は変わることはなかった。


「そう」 


ただ、小さく一言だけ呟いただけだったそうだ……。




そして、今――



****



「どうしたの? レティシア、何だかぼーっとしているみたいだけど?」


不意に鏡に映る祖母から声をかけられ、慌てて振り向いた。


「い、いえ。何でもありません。ただ……ここ2年のことを思い返していたものですから」


すると祖母が笑みを浮かべる。


「……そうよね、2年前にあなたが私達のもとに来てから……本当に色々なことがあったものね。だけど、レティ。……今、本当に綺麗よ? そのウェディングドレス、とても良く似合っているわ。ルクレチアの着たドレス、手放さくて本当に良かった」


「お祖母様……」


祖母の目には涙が光っている。


「ありがとうございます、お祖母様」


私も目に涙が浮かびそうになり、慌てて祖母に止められる。


「駄目よ、泣いたりしては。折角のお化粧が取れてしまうわ」


「はい、お祖母様」



そのとき、扉のノックオン音と同時に声が聞こえてきた。


『レティ? いる? 入ってもいいかしら?』


「あ、あの声は……ヴィオラだわ! お祖母様、入ってもらっても良いですか?」


「ええ、まだ結婚式まで2時間あるから大丈夫よ。開けてくるわね」


祖母は扉を開けに行くと、背中を向けたままヴィオラと何か一言二言話をして部屋を出ていった。

そして祖母と入れ替わるようにオレンジ色のドレスを着たヴィオラが姿を見せた。彼女の背後には、濃紺のドレス姿のノエルもいた。

2人はいつの間にか、友人同士になっていたようだ。


「レティ! とっても綺麗だわ!」


「本当、なんて素敵なの!」


2人の友人は駆け寄ってくると私の手を交互に握りしめてくる。


「ありがとう、ヴィオラ。ノエル、式に来てくれて本当に嬉しいわ」


「当然じゃない、親友のおめでたい日なのだから。ね? ノエル」


「ええ。その通りよ。本当におめでとう、レティシア」


ヴィオラとノエルが互いに笑いあう。


「それにしても以外だったわ。まさか、イザークまで式に呼ぶとは思わなかったわ」


今も同じ大学に通い、交流があるヴィオラとイザーク。私はヴィオラからイザークに式に出席してもらえるか頼んだのだ。


「え、ええ……。彼には、その色々とお世話になったから。自転車に乗れるようになったのだってイザークのおかげだし……」


それに何より、レオナルドがイザークに式に参加してもらいたいと提案されたからだった。

するとノエルが会話に入ってきた。


「イザークって、ヴィオラと一緒に来た男性でしょう? 素敵な人よね。2人は恋人同士なの?」


「まさか! 違うわよ! 高等部時代からの腐れ縁みたいなものよ、そうよね? レティ」


「そ、そうね」


ヴィオラの勢いで、つい頷いてしまった。

でも、確かに今のヴィオラにはイザークに恋している様子は見えない。


「そうだったの? だったら私、彼と親しくなりたいわ。だって好みのタイプなんだもの」


「え? ノエル。本気で言ってるの? 悪いことは言わないわ、イザークは辞めといたほうがいいわよ。彼って、すごく無愛想な人なんだから」


ノエルの言葉にヴィオラが反論する。

そんな2人の様子を微笑ましく見ていると、開け放たれた扉からこちらを覗いている人物が目に入った。


その人物は……。


「お父様……」


「レティ、……その、入ってもいいだろうか……?」


父はためらいがちに声をかけてきた――


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