33 レオナルドの考え

「レティシアをひとりでカルディナ家へ行かせるわけにはいかん。だからといって、私は絶対にあの家になど行くものか。ルクレチアを見殺しにするような輩ばかりが集まるようなカルディナ家には……第一、性悪女とその娘がいるのなら尚更だ」


祖父は吐き捨てるように言う。

確かに、母の死の元凶となったイメルダ夫人にフィオナがいる屋敷に祖父が足を運べるはずは無いだろう。


けれど……


「おじい様。それではレオナルド様にご迷惑を掛けてしまいます。レオナルド様は色々とお忙しい方ですし……」


言いかけた時、レオナルドは返事をした。


「ええ分かりました。一緒に行きます」


「おお、そうか。お前なら引き受けてくれると思っておった」


祖父が嬉しそうに笑みを浮かべる。

確かにいくら父の本心が分かったとはいえ、イメルダ夫人やフィオナに会うのは勇気がいる。

誰かが一緒だと心強いのは確かだ。


「あの、本当によろしいのですか?」


レオナルドに尋ねると、彼は頷いた。


「ああ、勿論だ。それでは、レティシアの事情を教えてくれるか?」


「分かりました。それではお話します……」


そして私は祖父の前で、レオナルドに自分の置かれた状況を説明した――




****



――十八時十分


「なるほど……そんな事情がレティシアにあったとは……」


全ての説明をすると、レオナルドはため息をついた。


「どうだ、レオナルド。酷い話だと思うだろう?」


祖父が身を乗り出す。


「ええ、そうですね。それに腑に落ちない点があります」


「腑に落ちない点ですか……?」

「どんなところだ?」


「本当に……ルクレチア様は心の病にかかってしまったのでしょうか? もっと他に要因があるような気がするのです」


「何だって?」


レオナルドの言葉に眉をしかめる祖父。


「あまりにも怪しすぎます。それは確かに自分の夫に愛人がいて、さらに子供までいるとすれば心中穏やかにはなれないでしょう。ですが、人格が崩壊する程の病になるでしょうか? ルクレチア様はどのようなお方でしたか?」


レオナルドは祖父を見つめた。


「娘は明るく、気立てが良かった……だが言われて見ると、確かに深い悩みを抱えて心を壊してしまうようにも思えなかった……」


「イメルダの父親はフットマンになる前は庭師だったのですよね? さぞかし植物には色々と詳しかったのではありませんか?」


「何だって!?」


「え……? ま、まさか……?」


レオナルドの言葉に私と祖父は息を飲んだ。

確かに庭師であれば様々な植物に詳しかっただろうし、フットマンなら母に近付くこ

となど容易だっただろう。


「でも、これはあくまで俺の憶測にすぎません。何しろ、仮にそうだとすると随分昔の話になるでしょうし証拠などありませんから」


「いいや……絶対にそうに決まっている! 忌々しい女の父親がルクレチアに毒を盛って病気にしたに違いない! ひょっとすると、ルクレチアが死んだ原因もその男の仕業かもしれん……!」


祖父は下唇を噛みしめ、顔を真っ赤にさせて震えている。


「そ、そんな……」


私もその話に衝撃を受けた。まさか、本当に母が心を病んでしまった本当の原因は他にあったのだろうか? 


「とにかくフランク氏がどのような方法でイメルダを追い詰めるかは分かりませんが、どうせならその父親も問い詰めた方が良いかもしれませんね」


そしてレオナルドは口元に笑みを浮かべた――






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