第七章

1 花屋での再会

 ヴィオラとイザークが『アネモネ』島を旅立ったその日の内に、私は祖父母がプレゼントしてくれた家に戻っていた。


 祖父母からは『リーフ』に戻るまではグレンジャー家で暮らすように勧められたけれども、いつまでも家を不在にするわけにもいかずにそこは丁重に断った。

そして最終的にレオナルドの説得により、祖父母は渋々納得し……私は母が残した家に戻ることになったのだ。



****


 私は自転車で町へ買い物に来ていた。

明日はいよいよ『リーフ』へ戻るので、父に何かお土産を買って行こうと思ったからだ。


「お父様はどんな品物が好きなのかしら……」


賑わう町並みを赤い自転車で押して歩いていると、物珍し気に人々が私を見ている。それが何だか気恥ずかしかった。

『アネモネ』島に住む人たちの間では私はすっかり有名になっていたので、見つめてくる人々は観光客なのかもしれない。


「観光シーズンだから人が多いのね……自転車で来ないほうが良かったかしら」


けれど自転車はもはや私にとっては手放せないほどの必需品になっていた。『アネモネ』島はとても穏やかな気候なので、秋になるまでは雨が降ることは滅多に無い。

なので、私はほぼ毎日自転車に乗って周っていたのだ。


 そのとき、ふと目の前に建物の前に沢山の花が並べられている建物が目に入った。


「お花屋さんだわ……」


カルディナ家にいた頃は、寂しさを紛らわすために花壇の手入れを良くしていた。

お花は手を掛ければ掛ける程に美しく咲き、私の心を慰めてくれたからだ。


「そう言えば『アネモネ』島でどんなお花が売っているのかしら?」


興味を持った私はお花屋さんへ足を向けた。

店先の邪魔にならない場所に自転車を止めると、私は早速店の中へと入ってみた。

すると店内には『リーフ』では見たことも無い色鮮やかな花が所狭しと売られている。

その中の一つ、紫の花に目がとまった。


「まぁ……何て奇麗な花なのかしら」


「それはブーゲンビリアという花ですよ」


「え?」


ふいに背後で突然話しかけられ、私は驚いて振り向いた。


「あ、もしかしてシオン…‥さん? ですか?」


「あ、確か君は……?」


シオンさんの顔に困惑の表情が浮かぶ。


「はい、レオナルド様の遠縁にあたるレティシアです」


「あ、そうだった。どこかで見た顔だと思った。いきなり声掛けてごめん。花の名前を知りたがっていたようだったからつい……」


申し訳なさそうにシオンさんが謝ってくる。


「いえ、でもブーゲンビリアと言う名のお花なのですね? 教えて頂きありがとうございます。シオンさんはお花を買いに来たのですか?」


「いや、俺は花の種を渡しに来たのさ」


「え? 花の種を……ですか?」


「研究の為に色々な花を大学で育てているから、種が溢れてしまってね。それで島の花屋さんに分けてあげているんだよ」


「そうだったのですか」


さぞかし、この人は花を育てるのが上手なのだろう。


「そうだ、丁度良いところで君に会えた。実は『リーフ』へ行く前に幾つか尋ねておきたいことがあったんだよ。少しいいかな? あまり時間は取らせないから」


「ええ。いいですよ」


勿論、私は頷いた—―

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