19 本日の報告
本日の授業が全て終わるチャイムが校舎に鳴り響いた。
「ふぅ……」
今日からフィオナが一緒に帰る……そう思うと気が重かった。
「大丈夫? レティ。今日から義理の妹が一緒なのよね?」
帰り支度を終えたヴィオラが話しかけてきた。
「ええ、そうなの」
「どうする? 今日は私と一緒の馬車に乗って帰らない? まだ顔色が悪いわよ」
ヴィオラはとても優しい。私をこんなに気遣ってくれるのだから。でも……
「そうしたいのは山々だけど……フィオナの登校初日から、私が別の馬車に乗って帰れば……夫人の機嫌を損ねてしまうかもしれないわ」
いや、むしろ夫人は邪魔な私がいないことを喜ぶかもしれない。けれど……父はどう思うだろう。嫌味な真似をするなと叱責されるかもしれない。
「そう、分かったわ。無理には誘わないけれど……」
そのとき――
「レティ! 迎えに来たわ!」
大きな声が廊下から聞こえて振り向いた。するとそこには笑顔で手を振るフィオナとセブランの姿がある。
「まぁ! 図々しい……もうあなたのこと、愛称で呼んでるの?」
「ええ。でも、そう呼んでもいいとフィオナに聞かれたから……私がいいと言ったのよ」
「そうだったの……」
「ごめんなさい、あまり二人を待たせるわけにいかないから、私もう行くわね」
「分かったわ。また明日ね」
私はヴィオラに手を振ると、急いで二人の元へ向かった。
「ごめんなさい、待たせてしまって」
「別にそれくらい大丈夫だよ、それじゃ一緒に帰ろう?」
セブランが笑顔で話しかけてくれる。
「ええ」
頷くと、私達は歩き始めた。
「ねぇ、聞いて、レティ。私、セブラン様と同じクラスになれたのよ? すごい偶然だと思わない」
「本当? それは良かったわね」
そんなことは言われなくてもすぐに気づいたが、私は笑顔で頷いた。
「本当に驚いたよ。転入生の紹介がありますと朝、先生が教室に入ってきたときには。まさかと思っていたら現れたのがフィオナだったからね」
「本当。私も教室にセブラン様がいたから驚いたわ。でも安心したわ。だって知り合いがいるといないとでは全然違うもの。それでね、今日は色々校舎を案内してもらったの……」
フィオナのおしゃべりは止まらない。
結局馬車に乗っても、彼女は今日1日の出来事を興奮した様子で話し……私が口を挟む隙間は全く無かった。
そんなフィオナをセブランは優しい瞳で見つめながら聞いている。
セブランは誰にでも優しい。……それは私に限ってではなく、全ての人に……
だから、彼がフィオナのことを見つめる頬が少し赤く染まって見えるのは多分きっと、私の気の所為だろう。
そう、無理に言い聞かせた。
****
そしてその夜――
「何? レティシアではなく、セブランと同じクラスになったのか?」
父がフィオナの話に驚いたように目を見開く。
「ええ、そうなのよ。すごい偶然だと思わない?」
イメルダ夫人が父に話しかける。
「あ、ああ……そうだな」
父はうなずき、何故か私をチラリと見た。その視線が気になったが、私は黙って食事を進めた。
今夜も三人だけで盛り上がる夕食。私はそこに入ることが出来ない。
以前、父と二人きりの食事のときも居心地の悪さを感じていたけれども、今のこの状況は私にとって針のむしろ状態だった。
時折、私を見るイメルダ夫人の刺すような瞳が耐え難かった。……もしかすると私を邪魔だと思っているのかもしれない。
早く食事を終えて、一人になりたい。
そう思いながら、食事をしていると不意に父に声をかけられた。
「レティシア」
「はい」
顔を上げると、父がじっと私を見つめている。
「あ、あの……?」
「食事を終えたら後で私の書斎に来なさい。……いいな?」
「は、はい……?」
「あら? お話なら今ここですればよいのではなくて?」
イメルダ夫人が父に尋ねた。
「ええ、そうよ。お父様」
フィオナも頷く。しかし……
「いや、二人は遠慮してくれ。いいな、レティシア」
「はい、分かりました」
一体何の話なのだろう……?
不安な気持ちのまま、私は食事を終えた――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます