18 責める友人
「ど、どうしたの!? レティ! 顔が真っ青じゃないの!」
教室へ戻ると、ヴィオラが驚いた様子で声を掛けてきた。
「う、ううん……大丈夫、何でも無いわ」
「何でも無いってことないでしょう? まさか美化委員会の活動中に何かあったの?」
「え?」
その言葉にドキリとし、先程セブランの手を取って温室へ嬉しそうに入って行くフィオナの姿を思い出してしまった。
だけど私には何も言う権利は無い。私たちはまだ婚約をしているわけでもないのだから。
けれど、ヴィオラの言葉にますます私は青ざめてしまったのだろう。
何を勘違いしたのか、ヴィオラは思いもよらない言葉を口にした。
「さては、イザークに何か言われたのね? 前から彼はレティに何かにつけて絡んでくるところがあったから……私の方から文句を言ってやるわ」
「ま、待って。違うわ。イザークは何も悪くないのよ」
「だけど! 委員会活動から戻ってから、様子がおかしいんだもの。どう考えたってイザークに何かされたと思うじゃない」
するとそのとき――
「俺がどうしたんだよ」
丁度運悪く、イザークが教室に戻って来た。
「あ……イザーク。お疲れ様」
後ろめたい気持ちになりながら、彼に声を掛ける。
「ああ、君もな」
するとヴィオラが椅子から立ち上がった。
「ちょっと、イザーク。一体レティに何をしたのよ」
「何のことだ?」
首を傾げるイザーク。
「それはこっちの台詞よ。委員会活動から戻ってからレティの様子がおかしいのよ?絶対に何かあったと思うじゃない」
「何でそれが俺のせいになるんだよ」
「決まっているでしょう? 一緒にいたのが貴方だったからよ」
二人の間に険悪な雰囲気が漂い始めた。
「待って! 落ち着いて、ヴィオラ。本当にイザークは何もしていないわ。むしろ気分が悪くなった私を先に帰らせてくれたのよ。彼は一人残って後片付けをしてくれたのだから」
「え……そうだったの?」
ようやく納得したのか、ヴィオラはイザークを見た。
「ごめんなさい、勝手に勘違いしてしまったわ」
「……別に、分かればいい。だけど、レティシアが気分が悪くなったのはセブランのせいだからな」
「イザーク!」
まさか彼の口からセブランの話が出てくるなんて。
「え……? セブランの? 一体どういうことなの?」
ヴィオラが私に視線を向ける。
「そ、それは……」
「俺達が花壇の手入れをしていたら、セブランがフィオナとかいう女と一緒に温室へ入っていく姿を目撃したのさ。それでレティシアは気分が悪くなったんだろう?」
「え! フィオナって……貴女の義理の妹の?」
「義理の妹……? そんなのがレティシアにはいたのか?」
セブランが私を見て首を傾げる。
「え、ええ……そうなの。今日から同じ学校に通うことになって……」
「ふ〜ん。そうか……とにかく誤解が解けたなら、俺はもう行くから」
イザークはそれ以上尋ねることはなく、自分の席に戻っていった。
「レティ……どうするの? どちらかを問い詰める?」
ヴィオラがじっと私を見つめる。
「でも、盗み見をしていたように思われてしまうかもしれないわ」
第一イメルダ夫人の耳に入れば、恐らく父の耳にも伝わるだろう。そうなると叱責されてしまうかもしれない。
「きっと、学校案内を頼まれただけよ。だから私の方からは何も聞かないわ」
「レティ……私は何があっても貴女の味方だからね」
そう言って私の手を握りしめるヴィオラ。
彼女の温かい手がとても嬉しかった――
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