20 父と意外な会話
食後、私は一旦部屋に戻り学校の課題を始めた。
今日は歴史の年表まとめと数学の問題が出されている。時計の秒針が刻む中、私は無言で課題に取り組んだ。
「ふぅ……終わったわ」
ペンを置いて、時計を見ると時刻は二十時半を過ぎている。私が食事の席を立った時、まだ三人はダイニングルームに残って食事をしていたが、もう終わってそれぞれの部屋にいるのかもしれない。
「お父様の部屋へ行かなくちゃ……」
扉を開けて部屋を出ると、父の書斎に向かった。
**
重厚そうなマホガニー製の扉の奥に父がいる。扉の前に立ち、一度深呼吸すると私は扉を叩いた。
――コンコン
するとややあって、扉が開かれた。
「来たか、入りなさい」
父は私を見おろすと無表情で声を掛ける。
「はい、お父様。失礼いたします」
部屋には二つの書斎机が置かれている。その内、一つの書斎机の上には書類が散乱していた。
「レティシア。そこの書類を分別してまとめてくれ。やり方は分かるな?」
私は十五歳のときから父の仕事の手伝いを始めていた。だからもう手順は分かっている。
「はい、分かりました」
何の用事で呼び出されたかと緊張していたけれども、結局は仕事の手伝いだったのかと思うと少しだけ拍子抜けしてしまった。
席に座ると、私は早速書類の分別を始めた。
仕事を初めて少しした頃、突然父が話しかけてきた。
「レティシア、フィオナのことについてだが……」
「え?」
いきなりの話で驚いて私は顔を上げた。すると父はじっと私を見つめている。
「あ、あの……何でしょうか?」
私は自分の知らない所で何か彼女にしてしまったのだろうか? 緊張が走る。
「まさか、フィオナがセブランのクラスに入ったと聞かされた時は驚いた」
「そうなのですか?」
それほど驚くことなのだろうか? クラスは三クラスにしか分かれていないのに。
その時――
ガチャッ!
突然扉が開かれ、驚いた私は顔を上げ……さらに驚いた。何と扉を開けたのはイメルダ夫人だったからだ。
「何だ? いきなり扉を開けたりして……一体どうした?」
父が何処か咎めるような口調でイメルダ夫人に声を掛けた。
「い、いえ。多分レティシアが来ているのかと思って……一緒に私も話に混ぜて貰おうかと思ったのだけど……」
夫人は私が書類の整理をしている姿を見ている。
「見ての通りだ。私がレティシアに部屋に来るように命じたのは仕事を手伝って貰う為だ。イメルダ、君もやってみるか? 領主の仕事を手伝う妻は世間に多くいるからな」
「そ、そうですね。その内に教えて頂きますわ……私はお邪魔のようですので下がらせて頂きますね。失礼致しました」
そしてイメルダ夫人はまるで逃げるように部屋を去って行った。
「……」
父はイメルダ夫人が部屋を出て行く様をじっと見つめていたが、扉が閉ざされるとため息をついた。
その姿が何故か腑に落ちなくて首を傾げた。
「話が中断してしまったが……私は本当は学園側にフィオナをレティシアと同じクラスに入れて貰えるように頼んでいたのだ。なのに、まさかセブランのクラスに入って来るとは……」
「え……? そうだったのですか?」
あまりにも意外な話で思わず目を見開いてしまった。
「フィオナは……あの通り、行儀作法に全く疎い。お前と同じクラスにさせればお目付け役になって貰えるだろうと考えて以前から学園に相談していたのに……何故なのだろう?」
そして父はじっと私を見る。
「そ、そんな……お父様、私は何も知りません。大体、フィオナが同じ学園に通うことも知らなかったのですから」
「そんなことは分かっている。ただ、何故そうなったのか理由を知っているか尋ねてみたかったのだ。あの二人の前では聞けないからな」
何故、夫人とフィオナの前では聞けないのだろう?
けれど――
「すみません……私は何も聞かされておりませんから」
「そうか……そうだな。でも、セブランが一緒なら……少しはマシかもしれないな」
そして父は再び仕事を始めた。
少しはマシ……?
それは一体どういう意味ですか? 私の代わりにセブランにフィオナのお目付け役になってもらおうということですか?
私とセブランは‥‥…いずれ婚約するかもしれないのに、彼の側にフィオナを置くということですか?
聞きたいことは山ほどあったけれども……私と父は普通の親子関係ではない。
私は言葉を飲み込んで、父から託された仕事をするしか無かった――
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