21 夜のため息
父の仕事の手伝いを終わったのは21時半を過ぎていた。
「お父様、書類の分類が終わりました」
分類が終わった書類を父の机の上に置く。
「ああ、ご苦労だったな。もう部屋に戻ってもいいぞ」
父は顔を上げることもなく、返事をする。
「はい、それでは失礼致します」
挨拶を済ませて、部屋を出ようとした時背後から声を掛けられた。
「レティシア」
「はい?」
振り向くと父はじっと私を見つめている。
「あの……何か?」
「……いや、何でもない」
「そうですか? では失礼致します」
私は改めて挨拶すると、今度こそ書斎を後にした。
フィオナの部屋の前を通り過ぎ、自分の部屋の扉を開けようとした時。
――カチャ
突然隣の部屋の扉が開かれ、フィオナが顔を現した。
「レティ、今迄お父様のお部屋に行ってたの?」
あまりにもタイミングよく扉が開いたので、少しドキドキしながらも私は頷いた。
「ええ、そうよ」
「ふ〜ん。そう……それで一体どんな話だったの?」
何故イメルダ夫人もフィオナも私と父の会話を気にするのだろう?
「別に、話というわけでは無かったの。お父様の仕事の手伝いをしてきただけよ」
セブランとフィオナの話が出たことは何故か言う気にはなれなかった。
「……本当に仕事の手伝いだったの? 他に何か話があったんじゃないの?」
何故かしつこくフィオナが尋ねてくる。
「いいえ、本当に仕事の話だけよ? 何だったら貴女のお母様に尋ねてみたら? 書斎に一度いらしたから」
「え? お母様が?」
「ええ、そうよ。私とお父様が仕事をしている姿を見ているから」
「ふ〜ん……そうだったのね。それじゃ今迄仕事をしていたのね? ご苦労さま」
ニコニコ笑みを浮かべるフィオナ。
「それじゃ、少し疲れたから私、もう部屋に戻るわね」
「そうね。ゆっくり休んで。明日も学校だし」
「ええ。おやすみなさい」
フィオナと挨拶を交わすと、私は自分の部屋の扉を開けた。
****
「……ふぅ……なんだか疲れたわ」
入浴を終えた私はベッドに横たわると、天井を見上げた。
まだフィオナとイメルダ夫人との生活は始まったばかりなのに、既に私の精神は疲弊していた。
「この生活が……あと何年続くのかしら……」
早く家を出たい。
「セブラン……」
もし、セブランと結婚できればこの屋敷をすぐにでも出られるのに……彼の両親からは私達が十八歳になったら正式に婚約させようという話が出ている。
けれど、今のままではもしかするとこの話は流れてしまうかもしれない。
セブランはフィオナに惹かれているように見えるし、フィオナは初めから彼に好意を顕にしている。
父にしたって、セブランに彼女のお目付け役をさせようとしているようにも思える。
そして一番の問題はイメルダ夫人。
彼女は露骨なくらい、セブランとフィオナの仲を取り持とうとしている。
もしくは、私に対する単なる当てつけかもしれない。
「私は……これからどうすればいいの……」
思わず、ポツリと言葉が漏れる。
そして何故か亡き母の顔が脳裏に浮かび、ため息をついた――
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