第6章
1 グレンジャー家で迎えた朝
初めて私がグレンジャー家に泊ったその夜の私はとても素敵な夢を見た。
それは父と母が私を真ん中に三人で青空のもと、手を繋いで美しい『アネモネ』島の海岸を歩く……そんな素敵な夢だった――
「う〜ん……」
カーテンの隙間から漏れる光が顔に差し込み、突然私は目が覚めた。
時計を見ると、六時を少し過ぎた頃だった。
「夢……だったのね……」
ベッドの中でポツリと思わず漏れる呟き。
多分あんな夢を見てしまったのは、昨夜このお屋敷で祖父母やレオナルド様と一緒に団らんの食卓を囲んだからだ。
きっと私の願望があんな夢を生み出してしまったのだ。実際の父は私に笑いかけてくれたことは一度もないし、母は生まれたときから心が壊れてしまっていたから。
「もしかして……本当はお母様の心が壊れてしまったのは、私を産んだせいなのかしら? それでお父様は私を嫌って……?」
考えれば考えるほど、悪い方、悪い方へと進んでしまう。
「色々思い悩んでも仕方ないわね。私はもうカルディナ家へは戻るつもりもないのだから」
ベッドから起き上がり、大きく伸びをすると私は朝の支度を始めた――
午前七時――
――コンコン
部屋の扉がノックされたので、扉を開けると祖母が笑顔で立っていた
「おはよう、レティシア。朝食の誘いに来たわ」
「おはようございます、おばあ様」
じっと祖母の顔を見ていると母の面影が浮かんでくる。
「おばあ様……」
気づけば、私は祖母の胸に飛び込んいた。あんな夢を見たせいで私は母が恋しくなってしまったのだ。
「あら、どうしたの? レティシア」
祖母が私の髪を優しく撫でてくれる。
「あの……私、母の夢を……見たんです。多分、このお部屋が母の使っていた部屋だったからかも……」
後の方は言葉にならなかった。何故なら、涙が出てきそうになってしまったからだ。
「そうなのね。このお部屋が気に入ったなら、レティシアのお部屋にしてあげるわよ?」
「あ、ありがとうございます……おばあ様」
私は祖母から離れると、お礼を述べた。
「いいのよ。いくらレティシアが一人暮らしをしたいと言っても、このお部屋は今日からはあなたのものよ。だからいつでも遠慮せずにいらっしゃい?」
「はい、分かりました」
返事をしたそのとき――
「な、なんだ。もう迎えに来ていたのか?」
祖母と一緒に振り向くと、そこにはスーツ姿の祖父が目を見開いて立っていた。その背後にはレオナルドの姿もある。
「おじい様、残念でしたね。レティシアの迎えはどうやらおばあ様の方が早かったようですよ?」
レオナルドが祖父に語りかける。
「こ、こら。レオナルド! 余計なことを言うな!」
「え……? 私の迎えに……?」
レオナルドの言葉に、私は祖父を見つめた。
「そ、そうだ。まだこの屋敷内は不慣れだと思ったので、ダイニングルームまでつ、連れて行ってやろうと思っただけだ」
「おじい様……」
本当にグレンジャー家の人々はなんて心が温かいのだろう。これはカルディナ家では決して味わったことのない経験だった。
「それでは、皆で一緒にダイニングルームへ行きましょう」
「う、うむ。そうするとしよう」
祖母の言葉に、何処か照れくさそうに返事をする祖父。
そして私達は四人揃ってダイニングルームへと向かった――
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