2 見送られる私

 食後、皆でお茶を飲んでいると祖父が尋ねてきた。


「レティシア、この後はどうするのだ?」


「はい、家に帰ろうかと思っています」


「何だと! もう帰ってしまうのか!?」


「あら、そうなの? もっとゆっくりしていけばいいのに。レティシアが帰ると寂しくなるわ。女同士で話したいこともたくさんあるし。なにしろ、ほら。レオナルドは男性だから……」


祖父も祖母も別れを惜しんでくれている。


「すみません。女性じゃなくて」


レオナルドは祖母の言葉を全く気にする素振りもなく、涼しい顔でコーヒーを飲んでいる。


「申し訳ありません。まだ引っ越ししたばかりで買い揃えたいものもありますので」


「だったら、俺が買い物に付き合おうか?」


レオナルドの言葉に祖父が首を振った。


「レオナルド、お前には仕事があるだろう? だったら私が……」


「あら、何を言っているのかしら? やはり買い物に付き合うなら私が一番最適でしょう? レティシアだって、あなたみたいな気難しい老人よりは、私のほうが良いに決まっているじゃない。そうよね?」


「誰が気難しい老人だ」


祖父の反論する言葉を聞き流すかのように祖母は私を見て、にっこり笑う。


「え? そ、それは……」


戸惑う私にレオナルドが声をかけた。


「お二人共、それくらいにしておいてあげてください。レティシアが困っていますよ。彼女だって、ひとりでゆっくり買い物をしたいかもしれないじゃないですか」


「言われてみればそうよね。悪かったわ、レティシア」


「すまなかった……」


祖父母が謝ってきた。


「い、いえ。大丈夫ですから。どうか気になさらないで下さい」


今日は他にも仕事を探すつもりだった。なのでレオナルドの心遣いに感謝しながら、私は彼をそっと見るのだった――




****



「レティシア、また遊びに来なさい」


「私達はいつでも貴女を歓迎するわよ」


私を見送るためにエントランスまで見送りに来ていた祖父母が交互で声を掛けてきた。


「はい、おじい様。おばあ様。また遊びに来ますね」


するとそこへ、馬車を呼びに行っていたフットマンが戻ってきた。


「今、馬車をよんでまいりましたが……実は先程屋敷内を不審人物がうろついていたそうです」


「不審人物だって? どんな人物だった?」


レオナルドが眉を潜めた。


「目撃者の話によれば、スーツを着た人物だったそうです。木の陰からじっと屋敷を見つめていたそうなので、脅すためにバケツで水を撒いたら慌てて逃げていったそうですが」


「そうなのか? それは物騒だな……少し警戒しておいてくれ。また同じことがあったら、同じように追い返すのだ」


「はい、かしこまりました」


祖父の言葉に頷くフットマン。

すると、そこへタイミングよく馬車がやってきて眼の前で止まった。


「レティシア、不審人物のことが気になるから屋敷まで送ろう」


レオナルドが私に声を掛けてきた。


「うむ、それがいいだろう」

「よろしく頼むわ」


祖父母にも勧められたので、私はその提案を受けることにした。


「では、お願いできますか?」


「ああ、勿論」


笑みを浮かべるレオナルド。



その後レオナルドと馬車に乗り込むと、私は祖父母の姿が見えなくなるまで手を振り続けるのだった――


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