3 土産物店
「しかし、それにしても不審人物か……今まであの屋敷でそのような者は現れたことが無いしな……」
レオナルドが腕組みをした。
「ですが、本当に不審人物だったのでしょうか? スーツを着ていたという話ですけど」
「だからかえって怪しいと思わないか? スーツを着ていながら屋敷の様子を伺っているなんて。今度見つけたら、追い払うよりも捕まえたほうがいいかもしれない。だからレティシア、次にグレンジャー家に来る時は俺が迎えに来ることにしよう」
「ですが、レオナルド様はお仕事でお忙しいのではありませんか?」
「いや、別に大したことじゃない。それより買い物があるのだろう? 先程の不審人物のこともあるからな。俺が一緒に付き合うよ」
「え? で、でもご迷惑ではありませんか?」
まさか、先程の買い物の話を持ち出されるとは思わなかった。
「あのときは確かに一人で買い物をさせたほうがいいと祖父母に話したが、まだまだレティシアはこの島に慣れていないだろう? 俺が一緒なら今必要な品が何処で売っているのかすぐに分かる。それに実はこの島の観光案内をしてあげようかと考えていたんだ」
「観光案内ですか?」
「そう、観光案内だ」
頷くレオナルド。
『アネモネ』島の観光……
その話はとても魅力的な話だった。
ここ、『アネモネ』島は世界的にも名高い観光島で有名だった。『リーフ』に住んでいた頃の私は今まで一度も旅行をしたことが無かったので、観光という言葉にとても憧れを抱いていたのだ。
「では……ご迷惑でなければお願い出来ますか?」
「勿論だ。でもその前に、まずは必要な買い物をしたいのだろう? 何を買いたいんだ?」
「私、レターセットを買いたいのですけど」
黙っていなくなってしまったヴィオラには手紙を書いて、自分は元気だということを告げなければ。
それに多分、彼女に手紙を送ればイザークにも必然的に私のことが伝わるだろう。 何故なら私の目からは、ヴィオラとイザークは何となく仲が良さそうに見えたからだ。
イザークは私に何か話しかけようとしていただけに、あんな別れ方をしてしまったので気になっていたのだ。
「レターセットが欲しいなら文具屋か、もしくは土産物店が良いかもしれないな」
「土産物店ですか?」
予想もしていない言葉に首を傾げる。
「意外だったか? ここは観光で成り立っているような島だから土産物店がたくさんあるんだ。土産の中には貝殻の装飾品や、小物雑貨まで多岐に渡っている。ひょっとしてまだ土産物店には行ったことが無いのか?」
「はい、まだです。是非、行ってみたいです」
土産物店と聞くだけで、心が浮き立つ気持ちになる。
そんな私の気持ちに気付いたのか、レオナルドが笑顔を見せた。
「よし、それではこの島で一番大きな土産物店を案内しよう」
そしてレオナルドは御者に行き先を告げると、馬車は向きを変えて走り始めた。
****
馬車を途中で降りた私達は大きな通りを歩いていた。
「この通りに『アネモネ』島一番の土産物店があるんだ」
「人が沢山歩いていますね」
周囲を見渡しながらレオナルドを見上げた。
「ここは観光客が必ずと行って良いほど訪れる場所だからな」
「皆、何だか楽しそうですね」
歩いている人々は皆笑顔で幸せそうに見える。
「そういうレティシアも笑顔だぞ?」
「え? 本当ですか?」
自分では気づかなかった。
「ああ、すごく楽しそうに見える。連れてきて良かったよ。あ、ここが話していた店だ」
レオナルドが足を止めた。私達の目の前には白壁に青い木製の扉が印象的な建物が建っている。
「これが……土産物店ですか?」
「そうだ。それじゃ中に入ってみるか?」
レオナルドが扉を開けようとしたそのとき――
「もしかして……レティシアなの!?」
背後で聞き覚えのある声が聞こえたので、思わず振り向いた。
すると、そこには驚いたように目を見開くヴィオラとイザークの姿があった――
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