17ーa 残されたヴィオラ
「レティ……一体どうしたのかしら……?」
私、ヴィオラ・エヴァンズはイエローカラーのドレス姿で大ホールの中を捜し回っていた。
「レティ……何処に行っちゃったのよぉ……」
慣れないドレスにハイヒールを履いているものだから歩きにくくてたまらない。おまけに目のくらむほどに大人数の卒業生たちがドレスやタキシード姿でひしめき合っているのだ。これではとてもレティを捜し出すどころではない。
「もう……! 何だって、こんなに大勢の学生を一同に集めるのよ! 大体七百人なんて多すぎなのよ!」
誰に言うともなしに文句を言いながら私はレティを探し続け……ついに諦めて、ホールに設置された椅子に座り込んでしまった。
「はぁ……駄目だわ……見つからないわ。 こんなことならレティと一緒に行動すれば良かった……」
絶望的な思いでため息をつく。
私はレティと講堂で別れたことを今、激しく後悔していた。あのときはレティとは更衣室が同じ部屋なのだから、待っていれば絶対に彼女に会えるだろうと高を括っていたのだ。
けれど、レティは一向に現れる気配がない。そこでもしかすると何処かで行き違いがあったのではないかと思い、一人で大ホールまで来たのだが……未だにレティとは会えずにいた。
それに何だか言い知れぬ胸騒ぎを感じていた。講堂での別れ際、レティは今まで見たこともないような切羽詰まった様子で私を呼び止めた、あのときのことを。
あれは一体何だったのだろう?
「レティ……」
ポツリと彼女の名を呟き、大ホールの時計を見ると時刻は十三時になろうとしている。
「歩き回って喉も乾いたし、お腹も空いてきたわね……食事でもしてこようかしら」
大ホールには立食テーブルコーナーが要所要所に設置されている。学生たちは食事やダンスで卒業記念パーティーを楽しんでいた。
「パーティー終了時間までまだ時間はあるし、食事をした後にまたレティを捜せばいいわね」
ブツブツ独り言を呟きながら、自分に言い聞かせる私。
それに……万一にも、レティはセブランと一緒にいる可能性があるかもしれない。
取り敢えず、食事をしてからまた考えよう。
椅子から立ち上がると、私は立食テーブルコーナーへと向かった。
**
「う〜ん……! このお肉最高!」
ローストビーフに舌鼓を打っていると、人混みにまぎれてセブランがフィオナと親しげに飲み物を飲んでいる姿を偶然発見してしまった。
「な、何よ……! あれは……! やっぱりセブランはレティじゃなくて、あの女と一緒だったのね!」
二人を目にした途端、頭にカッと血が上る。許せない……! セブランはレティと婚約したはずなのに……!
「こうなったら文句を言いに行ってやるんだから……!」
ドレスの裾をたくし上げて、セブランとフィオナの元へ向かって突き進んだ。
すると、私よりもいち早くセブランに駆け寄った人物が目に飛び込んできた。
「え……? イザーク?」
髪が乱れきっているイザークはものすごい剣幕でセブランの胸ぐらを掴むと何やら文句を言い始める。
そして震えながら二人の様子を見ているフィオナ。
「イザークったら……! 何考えてるのよ!」
あれでは暴力の一歩手前だ。
急いで三人の元へ駆け寄ると、イザークの怒声が聞こえてきた。
「セブラン! お前……ふざけるなよ!!」
「え? な、何のことだよ!」
「ちょっと! イザーク! やめなさいよ!」
大きな声を上げながら駆け寄ると、三人は一斉にこちらを振り向いた――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます