4-13 もう一つの断罪 1

 シオンさんは少し庭で調べ物があるということでその場に残り、私とレオナルドのふたりで応接室へと戻ると……室内は一種異様な雰囲気に包まれていた。


 全員無言で、互いをまるで監視するかのように座っている。ピンと空気の張り詰めた……息の詰まるような空間だった。


「……見送りをしてきたのだな? レティシア」


応接室に入った私達に真っ先に気づいたのは父だった。


「はい、行ってきました……」


レオナルドと二人でソファに腰掛けると父が怪訝そうな顔を浮かべる。


「遅かったな。何かあったのか? それに……もう一人の彼はどうしたのだ?」


「シオンなら庭で調べ物があるということで、まだ残っていますよ」


レオナルドが代わりに父に返事をし……イメルダ夫人に視線をやる。その言葉に、夫人の肩が一瞬ピクリと動いた。


「調べ物……? 一体それは何です?」


アンリ氏がレオナルドに尋ねた。


「ええ、それは……」


レオナルドが返事をしようとしたその時、父が突然声を上げた。


「レティシア! その腕はどうしたのだ!?」


「え? 腕……?」


見ると、セブランに掴まれた腕の部分が紫色になっている。余程強い力で握られていたようだった。


「何かあったんだな?」


父の言葉に、フィオナが好奇心に満ちた目で私を見る。もう過ぎたことなので、セブランとのいざこざは父に報告するつもりは無かった。


するとレオナルドが代わりに答えた。


「元婚約者が、両親だけ先に返してレティシアの腕を掴んで復縁を迫ってきたのですよ」


「何だって!? セブランが!?」


その言葉に父の顔が青ざめる。


「あ、でも大丈夫です。セブランには、はっきり断りを入れ……レオナルド様が彼を帰してくれましたから」


「そうだったのか……それにしてもセブランは最後まで……彼の両親に報告しなければな。レティシア、腕の具合はどうなのだ?」


「はい、大丈夫です。痛みはもうありませんから」


すると、そこへフィオナが口を挟んできた。


「あら? あんなに私とセブランの中を羨ましげに見ていたのに? 折角復縁を申し出てもらえたのだから、受ければ良かったじゃない? 私は初めからあんな男、興味なかったもの。レティにあげるわよ」


「!!」


その言葉に、羞恥で顔が赤くなる。

フィオナは……知っていたんだ。私がかつて、ふたりの仲を羨んでいたことを。


「フィオナ!」


その言葉に父が怒りの表情を向けたとき――


「いい加減にしなさい! これ以上自分の立場を悪くしてどうするの!? 余計なことを口にするんじゃないの!」


驚いたことに、イメルダ夫人がフィオナを叱責した。


「ふ〜ん……」


レオナルドが何処か感心した様子で、夫人を見る。


「うるさいわね! 私に指図しないでよ! 元はと言えば、私がこんな目に遭ったのは全てあんたのせいでしょ!!」


フィオナが母親に噛みつく。


「全く……なんと、醜い争いなんだ……」


アンリ氏がうんざりした様子で呟き、再びレオナルドに尋ねた。


「それよりも、調べ物とは一体何です? まだ何かあるのですか? あの娘の父親が私であり、イメルダとフランクは婚姻していなかった。それが全てなのでは?」


「いいえ、まだありますよ。亡くなったレティシアの母親のことについてです」


そこへ、シオンさんが応接室に戻ってきた。


彼の手には……花の咲いた植物が握りしめられていた――

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