4-12 断罪 6
「セブラン……何を言ってるの? 父から正式に婚約破棄の話が出て、おじ様もおば様も受け入れてくれたでしょう? もう決まったことじゃないの」
「だけど、婚約破棄の話なんて一度も僕とレティの間で話し合ったこと無いじゃないか? 大体、何故婚約破棄をしないといけないんだい? バラの花束を手渡しながら僕はレティに婚約の申し出をした。そして君はそれを受け入れてくれたよね?」
「あのときは……確かに受け入れたわ。だけど、すぐにフィオナが現れて、セブランは彼女にもバラの花束を渡す約束をしたでしょう?」
結局、言葉通りに数日以内にセブランがフィオナに青いバラをプレゼントしたことは知っている。
セブランは内緒にしていたけれども、フィオナが自慢気に私に教えてきたからだ。
「フィオナは君の妹だから親切にしてあげようと、僕は……」
けれど、その言葉に私は首を振った。
「いいえ、違うわ。セブランはもしかして私が何も気付いていないとでも思っていたの? あなたがフィオナのことを好きだったのは知っているのよ?」
「レティ……」
「馬車の中ではいつもふたりは楽しそうに話をしていたわ。学園内でも常に一緒に行動していたでしょう? イメルダ夫人とフィオナの三人で、よく外出していたのも知っているわ」
セブランは黙って私の話を聞いている。けれど、彼が何を考えているのか今の私にはもう理解できなかった。
「だから私は婚約破棄をすることを決めたのよ? これだけ理由があれば十分でしょう?」
「聞きたいことがあるんだけど……どうして、卒業式の日にいなくなってしまったんだい? 僕はレティにダンスを申し込もうと思っていたのに」
「え? な、何故突然そんな話を……?」
突然場違いな質問をしてくるセブランに戸惑う。
「あの日の君は、いつもとは雰囲気がとても違っていて……綺麗だった。卒業記念なんだから、婚約者の僕とダンスを踊るのは当然だろう? どうして勝手にいなくなってしまったんだい? 君がいなくなったから僕は……どれだけ周りから責められたとと思う?」
一体、セブランは何を言っているのだろう?
「セブラン……私はもうこの家にいたくなかったから、出ていったのよ。あの日にいなくなったのは、卒業だけはきちんと済ませたかったからなの」
「どうして、ここにいたくなかったんだい? あぁ、分かった。もしかして僕とフィオナの仲を嫉妬していたからだね?」
嫉妬……? あのときの感情はそんなものではなかった。居心地の悪いここから逃げたかったからだ。新天地で新しい生活をしたかったから……
「それは……」
「大丈夫だよ」
口を開きかけた時、セブランが笑った。
「何のこと?」
「僕にはレティだけだから。フィオナとのことは終わったんだし。これからはずっと大切にするって誓うよ」
「セブラン……何を言ってるの?」
「いつ、式は挙げようか? 早いほうが良いよね? あ、そうだ。この家にいたくないなら僕の家にくればいいよ。もう一緒に暮らそう?」
言いながらセブランは私の右腕を掴んできた。
「は、離して……」
怖い、今のセブランは普通じゃない……
「離さないよ。だって、離せばまたレティは何処かへ行ってしまうじゃないか」
セブランが私の腕を握りしめる手に力を込める。
「い、痛いわ……」
その時――
「おい! レティシアから離れろ!!」
背後で、レオナルドの声が聞こえた。振り向くと、レオナルドとシオンさんがこちらへ向かって駆け寄ってくる。
「レオナルド様! シオンさん!」
思わず大きな声を上げると、セブランの腕の力が緩む。すると、シオンさんが私からセブランを引き離してくれた。
「僕のレティシアを返せ!」
するとレオナルドがセブランの胸ぐらを掴んだ。
「何が僕のレティシアだ! いいか! レティシアは物じゃない! お前は一度、彼女を捨てた! 今度はお前がレティシアに捨てられる番だ! お前はあの女に捨てられたから、レティシアにすがろうとしているだけだろう!」
レオナルドの目は怒りに燃えていた。
「ち、違う! レティは僕を捨てるはず無い! そうだよね!? レティ!」
けれど私は首を振った。 もう目の前にいるセブランは、かつて私が好きだった彼ではない。それどころか……
「もう……終わりよ! 二度と私に関わらないで!」
「そんな……! う、嘘だよね!? レティ! あ……そうか、お前がレティを騙して僕から引き離したんだな? レティを返せ!」
あろうことか、あの大人しかったはずのセブランがレオナルドに殴りかかってきた。
けれど、レオナルドは軽々と避け……逆にセブランを殴りつけた。
ガッ!
レオナルドに顔面を殴られたセブランは地面に倒れ込んだ。
「……これは正当防衛だ。先に手を出したのはお前だからな……だが、金輪際二度とレティシアに近づくな! もし今度また同じようなことをした場合はこんなものでは済まさないからな! 分かったら早く消え失せろ!」
地面に倒れて震えながらレオナルドを見つめていたセブランはその言葉に、恐怖の色を浮かべ……まるで逃げるように走り去って行った。
「レオナルド様……」
シオンさんの背後から、私はそっとレオナルドに声を掛けた。
「大丈夫だったか? レティシア。後をつけてきて本当に良かった」
レオナルドは私に近づくと、声を掛けてきた。
「は、はい。……おふたりのおかげで助かりました」
まだ身体の震えが止まらない。
するとシオンさんがレオナルドに声を掛けた。
「相変わらず強いな。やるじゃないか、 レオナルド」
「いや、アイツが弱すぎるだけだ。だが、あれだけ脅せば流石に大丈夫だろう。多分二度と近づいて来ることはないはずだ。第一、レティシアはまた『アネモネ』島に戻ってくるんだろう?」
「……はい、私の居場所は……そこですから」
するとシオンさんが声を掛けてきた。
「それじゃ、戻ろう。まだ片付けなければならない大事な話が残っているからな」
「大事な話……ですか?」
「そうだ。まだ明らかにされていない事実を暴く必要があるんだ」
そしてシオンさんは屋敷の庭を見渡した――
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