7 私の親友
その後の授業はシオンさんのことで頭が一杯で何も内容が入ってこなかった。
そして放課後――
「ねぇ、レティシア。本当に大丈夫なの? 1人で帰れる? 今日1日顔色がずっと悪かったじゃない。私がお兄さんを探してきましょうか?」
校舎を出ると、ノエルが心配そうに声をかけてきた。
レオナルドを探してくる……? それは駄目だ。今日はカサンドラさんとデートをするはず。
私の個人的感情でレオナルドを振り回すわけにはいかない。
「大丈夫よ。お兄様は……今日は用事があるから、1人で帰れるわ」
大学前には辻馬車乗り場がある。
今日はそれに乗って港まで行き……ヘレンさんの店まで行って、完成した作品を届けて来よう。
「なら、私が一緒について行ってあげましょうか?」
ノエルが私の手を握りしめてきた。
「え……? でも、ノエルは寮生でしょう? 私に付き添ったら、また大学まで戻ることになってしまうわ。それでは迷惑をかけてしまうし……」
「迷惑だなんて思っていないわ。レティシアが心配なのよ。本当は何かあったのでしょう? 喫茶店を出てからずっと様子がおかしかったもの。お願い、教えてよ。私達……友達でしょう?」
ノエルの温かい言葉に、胸が熱くなってくる。彼女に自分の胸の内を話したくなってしまった。
「ノエル……聞いてくれる……?」
「勿論聞くわ。それなら私の部屋に来ない?」
「ええ……」
私はコクリと頷いた――
****
女子寮は『アネモネ大学』と同じ敷地内に建てられていた。
3階建の大きな建物は白い壁に青い屋根の美しい外観をしており、ノエルの部屋は2階にあった。
「どうぞ、私1人の部屋だから遠慮せずに入って」
ノエルが扉を開けてくれる。
「お邪魔します」
遠慮がちに中へ入る。
室内は広く、壁も天井も家具も全て白で統一されていた。ノエルの話では、家具は全て寮に備え付けてあるそうだ。
「それで、話を聞かせてくれる?」
ソファに座ると、早速ノエルが尋ねてきた。彼女は私のことを本気で心配してくれている。
だから、包隠さず事実を話すことにした。
「ええ……実は……」
そして私は今までの経緯を全て説明した。
『リーフ』での出来事から、レオナルドとの出会い。自分がグレンジャー家の養子になったこと、そして……シオンさんのこと全てを。
全ての話を終える頃には、太陽が西に傾きかけていた。
「そ、それじゃ……レティシアが好きになったシオンという人は……公爵家の人だったの? それに婚約って……」
「ええ……そうなの。その話が……あの喫茶店で聞こえてしまって……それで……」
「で、でもそれは、あの学生たちが話していた噂話でしょう? 本当かどうかなんてまだ分からないじゃない」
ノエルの言う通り、噂話だったらどんなにか良いのに……だけど……。
「うううん……多分、噂話ではないと思うの……だ、だって……帰国の話を聞かされた時、今度はいつ戻って来れるかわからないって話していたし……菜園の世話は……心配しなくても……薬理学部の人が……世話をしてくれるって……」
いつしか私の目には涙が浮かんでいた。
きっと、シオンさんはこうなることが分かっていたんだ。だから私にハーブの種を選んで欲しいって……。
「レティシア……」
ノエルが私の隣のソファに座ると、肩を抱いてくれた。
「ノ……ノエル……わ、私……」
ノエルの肩に身体を預けると、私は静かに泣いた。この悲しみは、セブランの気持ちが完全にフィオナの物になってしまったことを知ったときを上回っていた。
私……セブランよりも、シオンさんのことを好きだったんだ……。
声を殺して無く私を、ノエルは黙って髪を撫でて慰めてくれるのだった――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます