23 傷つく光景

 その日はずっと憂鬱な気分で授業を受けていた。


けれどヴィオラに心配掛けさせたくは無かったので、彼女の前ではつとめて明るく振る舞っていた。


それなのに……




――昼休み



 私とヴィオラは学生食堂に来ていた。二人で料理の乗ったトレーを持って空いているテーブルが無いか探していた時……


「!」


私は見てしまった。窓際の席で向かい合わせに座って楽しそうに食事をしているセブランとフィオナの姿を。


「う〜ん……中々空いてる席が見つからないわね……」


ヴィオラが話しかけてくるも、私はそれどころではなかった。


「セブラン……フィオナ……」


傍から見れば二人はまるで恋人同士のように見えた。笑顔で話しかけているヴィオラをセブランは優しげな目で見つめているその姿を見ていると胸が締め付けられてくる。


「どうしたの? レティ……え!」


ヴィオラも私の見ている視線の先に気づき、驚きの声を上げた。


「な、何! あれ! セブランと一緒にいるのって……レティの異母妹でしょう?」


「え、ええ……そう……よ……」


トレーを持つ手が震えてしまう。


「一体何なの!? あの女! それにセブランまで……私、文句行ってくるわ!」


ヴィオラはトレーを持ったまま、セブランたちのもとに行こうとした。もしあの二人に文句でも言おうものなら、家に帰ったら叱責されてしまうかもしれない。


「ま、待って! ヴィオラ。そ、そんなことより……空いている席を探して食事しましょうよ」


自分の声が震えてしまうのが分かった。


「え、ええ……でも……」


「おい、そこの二人」


その時、不意にすぐ近くで声を掛けられた。


「え?」


振り返ると、テーブル席に座っているイザークの姿がある。


「イザーク……?」


私が名前を呼ぶと、ヴィオラも気づいたのか振り返った。


「あら、イザークじゃない。何か用?」


「二人共、空いてる席を探しているんだろ? 俺のテーブル席が2つ空いている。座ったらどうだ?」


確かにイザークが座っている丸テーブル席は2つの椅子が空いている。


「「……」」


私とヴィオラは顔を見合わせ、頷いた。


「そうね。ならお言葉に甘えようかしら?」

「座らせてもらえる?」


ヴィオラの後に続き、私はイザークに声を掛けた。


「ああ、他の誰かにとられる前に座れよ」


そこで私達はイザークと同席させてもらった。


「全く……! セブランもあの女も本当に気に入らないわ!」


席につくやいなや、ヴィオラは苛立った様子で食事を始めた。


「そ、そうね……」


するとイザークが話に加わってきた。


「セブランがどうかしたのか?」


「そうよ! セブランよ! レティと言う者がありながら、貴女の異母妹と一緒に食事をしているなんて信じられないわ!」


ヴィオラは憤慨した様子で説明する。


「……でも、セブランは……転入生のフィオナのお世話をしているだけだから……私からもセブランにお願いしたし」


「え……?」


その言葉にイザークが顔を上げて私を見つめ、ヴィオラは私に詰め寄ってきた。


「そうなの!? でも何で!?」


そこで私は説明した。父は本当は私とフィオナを同じクラスにして貰い、彼女の面倒をみせようとしていたこと。けれど何故かセブランとフィオナが同じクラスになってしまったこと。

そして父がさり気なくセブランにフィオナに面倒を見てもらえればとほのめかしていたので、私からセブランに頼んだことを……


「で、でもだからと言って……」


ヴィオラは納得いかないのか、まだ何か言いたげだった。


するとイザークが口を挟んできた。


「よせよ、レティシアが自分で決めたことなんだから口出ししても仕方ないだろう。それより早く食べよう。今日は裏庭の花壇の手入れがあるんだから」


「あ、そうだったわね。ごめんなさい。二人は今日も美化委員の活動があったのよね?」


ヴィオラが慌てた様子で謝ってきた。


「え、ええ。そうね。早く食べないと」


私は返事をするとチラリとイザークを見た。


「……」


ひょっとしてイザークは気を利かせて今の話を中断させてくれたのだろうか?


私は相変わらず無表情で食事を口に運んでいるイザークをそっと見つめた――

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