24 意外な一面

 食後、私はヴィオラと別れてイザークと裏庭の花壇の手入れをしていた。


園芸用エプロンに軍手をはめたイザークは一生懸命花壇の雑草を取り除いている。

彼も私と同じ伯爵家の令息、自宅で庭仕事など恐らくしたことがないはずなのに……


すると私の視線に気づいたのか、イザークが顔を上げた。


「何だ? 何か用か?」


「いいえ。ただ、一生懸命に仕事していると思って」


「当たり前だ。一度引き受けたからには最後まで責任を持ってやらないと。そんなのは当然のことだろう?」


「そうね。でもイザークも美化委員の仕事が好きだとは思わなかったわ」


「……別に好きだというわけじゃない」


ポツリと呟くように答えるイザーク。


「え……? そうだったの? てっきりあなたも園芸が好きだと思ったけど」


何故好きでもない美化委員になったのだろう?


「あのとき……役員決めをしたとき、美化委員に手を上げたのはレティシアだけだっただろう?」


「え? ええ。そうだったわね」


新しいクラス編成が行われた時、委員会の選出が行われた。それぞれの委員会は各クラスから代表で二名選出されることになっていたが、美化委員に手を上げたのは私しかいなかった。

全員貴族の生徒たちは、美化委員の仕事をやりたがらなかったのだ。


「ヴィオラは既に広報委員に決まっていたし、他に誰も美化委員に手を上げなくて、困っていただろう? だから俺がやることにしたんだよ」


「そう……だったの……? ごめんなさい……」


まさかイザークがそんな理由で美化委員になったなんて。申し訳ない気持ちになる。


「何故、そこで謝るんだ?」


不思議そうな顔をするイザーク。


「え? だって……なんと……なく?」


何となく私が困っているから手を上げてくれたのでしょう? と言うのは気が引けた。それではまるで自分が自惚れているように思われてしまうかもしれないから。


「何だ? 何となくって。別にレティシアは何も悪くないだろう? どのみち、全員何らかの委員会に所属しないといけないのだから。俺は特にやりたい委員会が無かった。だから美化委員になっただけなんだから」


淡々と語るイザークは……やっぱりよく分からなかった。でも、分かったことは彼がとても責任感の強い人だということだった。


そしてその後も私とイザークは花壇の手入れを続けた。



――カーンカーンカーン……


 

昼休み終十分前の鐘が鳴り響いた。


「……よし、終わったな。用具の片付けをしよう」


イザークが雑草の入った麻袋の口紐を縛りながら声を掛けてきた。


「ええ、そうね」


用具を片付けていると、じっとイザークが私を見つめている。一体どうしたのだろう?

すると、イザークは無言で近づいてくると私の顔に手を伸ばしてきた。


「な、何?」


いきなり至近距離に近づいてきて手を伸ばされた私は焦って一歩後ずさった時……


「髪」


「え?」


「髪の毛に葉っぱがついている」


そしてイザークは私の髪に触れると葉っぱを摘んだ。


「あ……葉っぱね……」


びっくりした……思わず安堵の息を吐いた時。


「……プッ」


突然いつも無表情のイザークが口元に笑みを浮かべた。


「え?」


あまりのことに驚いて、彼を見上げると次には元通り無愛想な彼に戻っている。


「それじゃ用具を片付けに行こう」


イザークはそれだけ言うと、麻袋を持って歩きだした。


「え、ええ」


スコップが入った袋を持つと、私も彼の後を追った――




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