第2章
1 ある出来事 1
イザークと話をして、少しだけ私はフィオナとセブランのことを割り切れるようになった。
そう、セブランがフィオナに親切にしているのは彼が責任感があるからだと。だから親身にフィオナに接しているに違いないと自分を納得させることにしたのだった。
いいえ‥‥‥そう思わなければ二人の前で平静でいられなかったからだ。
フィオナとセブランの距離はますます近くなる反面、私は彼と距離が離れていくのを実感せざるを得なかった。
屋敷の中では私一人が家族の輪に未だに入ることが出来ず、登下校ではフィオナとセブランの仲の良さを見せつけられるという辛い日々を送っていた。
唯一、私が息をつける場所は学校で過ごす時間だった。
けれどその時間ですら時折見かけるセブランとフィオナの仲よさげな姿を見かけるたびに、私は胸を痛めていた――
****
それはフィオナとイメルダ夫人が現れてから半月ほど経過したある日のことだった。
「……ねぇ、大丈夫? レティ」
登校してきた私に朝一番、ヴィオラが声を掛けてきた。
「おはよう、ヴィオラ。朝から突然どうしたの?」
カバンを置いて着席するとヴィオラは私の顔を覗き込んできた。
「何だか調子が悪そうに見えるわ。目の下にクマもあるし」
最近、私は夜もあまり眠れなくなっていた。それに今日は確かにいつにもまして朝から体調が悪く、朝食も半分近く食べることが出来なかった。それに何だか今日はフラフラする。
「え、ええ。昨夜遅くまで本を読んでいたからかもしれないわ。つい、夢中になってやめられなくなってしまったのよ」
大切な親友を心配させたくなかったので、私は咄嗟に嘘をついた。
「本当? 本当にそうなの?」
「勿論本当よ」
「レティがそう言うなら信じるけど……夜はちゃんと寝た方がいいわよ?」
「そうね。これから気を付けるわ」
私は笑みを浮かべて返事をした――
**
四時限目は美術だった。今日は外で自分の好きな景色を写生すると言うことで私たちは校舎の外へ向かって歩いていた。
「はぁ~……憂鬱だわ。美術の時間て。大体私は絵を描くのが苦手なのよ。絵なんか描けなくたって勉強には関係ないのに」
ヴィオラが隣を歩くヴィオラがため息をつく。
「確かにそうかもしれないけど……私は美術の時間は好きよ」
「レティは手先が器用だものね。絵を描くのも上手だし。それで? 何を描くかはもう決まっているの?」
「ええ、花壇の絵を描こうと思っているわ。やっぱり自分で手入れした花壇の絵を描いてみたくて……」
「そうなの? それじゃ私も同じ場所で絵を描こうかしら」
「ええ、一緒に描きましょう」
階段を降りながら話をしている時、ハンカチを落としてしまった。
「あ、いけない」
拾い上げて、立ち上がろうとした時。
「……え?」
突然周りの音が遠くに聞こえ、気が遠くなってくる。
最後に見た光景は驚いた様に私を見つめて手を伸ばすヴィオラの姿と、そして……
私の目の前は真っ暗になった――
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