2 ある出来事 2

 暗い……私は暗い闇の中にいた。


『ここは何処なの‥…? 暗くて何も見えないわ……』


辺りを見渡してみると、遥か前方にぼんやり明るい光が見える。もしかして、あれは出口なのかも……!


私は急いで光の方向へ向かって駆けた。徐々に光が大きくなっていき……


『え……?』


思わず足を止めてしまった。

そこには親し気に腕を組んで歩くセブランとフィオナの姿があった。二人は私に気付く様子も無く、光の方角へ歩いていく。


『あ……待って! 私も一緒に行くわ!』


大きな声を上げて追いかけようとすると、不意に二人が振り返った。


『ごめん。レティ。僕はもう君を婚約者にすることは出来ないよ。だってフィオナが好きなんだ』


『ごめんね。レティ。私、セブラン様と離れたくないの。だから譲ってもらうわね。お父様も私とセブラン様の婚約を望んでいるのよ』


耳を疑うセブランとフィオナの言葉に愕然とする。


『そ、そんな……嘘でしょう……? セブラン……フィオナ……』


けれど二人はもう私を気に掛けることも無く、去って行く。それと同時に光も徐々に小さくなっていく。


『待って! お願い! 置いてかないでー!』



****


「あ……」


不意に私は目が覚めた。見覚えのない白い天井に、周囲は白いカーテンで覆われている。


「え……? ここは……?」


ベッドから起き上がろうとした時、右足首に痛みが走った。


「い、痛っ!」


すると目の前のカーテンがシャッと開けられ、黒髪に白衣姿の女性が姿を見せた。この人は医務室の先生だ。


「良かった、目が覚めたのね。覚えている?あなたは立ち眩みを起こして気を失ってしまったのよ。あら……どうしたの? 何処か痛むの?」


先生が顔を覗き込んでくる。


「え……?」


一体何のことだろう? 目をこすろうとして、私は自分の頬が涙で濡れてることに気付いた。


「え? 私……泣いて…‥?」


「あら? 泣いていたことに今気づいたの? でも良かったわ。もう少しで貴女階段から転げ落ちるところだったのよ。助けてくれた人に感謝しないとね」


「助けてくれた人? 」


一体誰だろう?


「それよりもどう? 家に帰れそう? そろそろ授業が終わる時間だけど」


「え……? 今、何時ですか?」


「十五時半になるところよ」


「十五時半……?」


確か美術の授業の為に外に出たのが十一時頃。私は三時間半も医務室で過ごしていたのだ。


「大丈夫? まだ頭がボンヤリしているみたいだけど……でも授業が終わったら迎えに来ると言っていたから、それまで休んでいるといいわ」


誰が迎えに来てくれるのだろう……?


「他にどこか具合悪いところはないかしら?」


「はい‥‥…あ、そう言えば先生。実は右足首が痛むのですけど……」


すると先生は目を丸くした。


「え!? 何ですって。 ちょっと見せて頂戴」


「はい」


上掛けをめくって、右足の靴下を脱ぐと足首が腫れている。


「これは……」


先生は慎重に足首に触れると眉をしかめた。


「どうやら、足首を捻ってしまったみたいね。今手当てしてあげるわ」


そして先生は腫れている部分に湿布を貼ると包帯で固定してくれた。


「治るのに一週間くらいかかると思うわ。治るまでは安静にしているのよ? 医務室に松葉杖があるから貸してあげましょう」


「ありがとうございます」



 その時


――ガチャッ!


医務室の扉が突然開かれた。


「レティ!」


「え……?」


部屋に飛び込んできたのは息を切らせたセブランだった――

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