3 ある出来事 3

「セ、セブラン……どうしてここに?」


まさか……迎えとはセブランのことだったのだろうか?

嬉しさのあまり、顔がほころびかけ……次の瞬間、再び私の顔は凍りつく。


「レティ! 大丈夫なの!?」


セブランのすぐ背後からフィオナが顔をのぞかせたのだ。


「レティ、大丈夫だったのかい? 美術の時間に階段から転げ落ちそうになって意識を失ったとイザークから聞かされて驚いたよ」


セブランはベッドのそばまでやってきた。


「え? イザークが?」


すると、フィオナが頷く。


「ええ、そうよ。放課後イザークという人が私達の教室にやってきたのよ」


「そうだったの?」


私達の教室……その言葉にチクリと胸を痛めながら返事をする。


「イザークがね、レティが貧血を起こしたので医務室まで運んだから放課後、迎えに行ってあげてくれって知らせにきてくれたんだよ」


「あの人、レティのこと随分気にかけてくれているのね?」


フィオナの言葉が妙に気になる。


「それは……多分、クラスメイトとしてだと思うわ。それにイザークとは同じ美化委員だからかもしれないわ」


けれど、イザークが助けてくれたなら明日にでもお礼を言わないと。


その時――


「失礼します。友人のカバンを持ってきたのですけど」


カーテン越しから声が聞こえてきた。その声はヴィオラだった。


「あら、持ってきてくれたのね。友達なら目が覚めたわよ」


「え! 本当ですか!」


先生が声をかけると、ヴィオラが驚きの声を上げて駆け寄ってくる気配を感じた。


「レティ!」


カーテン越しからヴィオラが顔をのぞかせ、一瞬で表情がこわばる。


「セブラン……それに、あなたは……」


「はじめまして。私はレティの妹のフィオナです。セブランとは同じクラスなのよ。あなたの名前も教えてくれる?」


フィオナはニコニコしながらヴィオラに挨拶する。


「……私はヴィオラよ。レティとは大の親友なの」


そしてすぐにヴィオラは私に視線を移す。


「良かったわ……レティが無事で。階段から落ちそうになったときは本当に驚いたわ。イザークが咄嗟に助けてくれなければどうなっていたか……あら? レティ。足に包帯が巻かれているじゃない。もしかして怪我したの?」


「え、ええ……そうなの。少しひねってしまって」


「え? そうだったの!」


その時、初めてセブランは私が怪我していることに気づいたようで足首を見た。


「本当だ……大丈夫? レティ」

「まぁ、怪我をしていたのね?」


フィオナも私の足を見る。


「そうよ、治るまでには一週間くらいかかるから松葉杖を貸してあげましょうと話していたところなのよ」


医務室の先生の言葉にヴィオラがとんでもないことを言ってきた。


「そうだったのね……だったら、セブラン。馬車に乗るまでレティをおんぶしてあげたら?」


「え? 僕が?」


「そ、そんな……いいわよ。松葉杖を借りるから」


校内でセブランにおんぶしてもらうのは何だか気恥ずかしい。


すると――


「ええ、そうよ。本人が松葉杖を借りると言ってるのだからいいじゃない。荷物なら私が持ってあげるし」


フィオナがセブランの袖を掴みながらヴィオラを見る。


「ちょっと待ってよ。私はセブランに話しかけているのよ? あなたには何も聞いていないわよ」


「だけど……!」


フィオナは何か訴えるような眼差しで私を見つめてきた―

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