4-6 断罪 1

 応接室で丸テーブルを囲むように、私達全員は着席していた。


私の両隣にはレオナルドとシオンさん。向かい側には父が座っている。それだけで少しの勇気をもらえる気がする。


「さて、それでは話を始めようか? イメルダ、お前なら今から何の話をするのか分かっているだろう?」


「そ、その前に……この方達が何故同席しているのかしら? 一体何者なのよ。その話から先にしませんか?」


イメルダ夫人がレオナルドとシオンさんに素早く視線を送る。もしかすると、夫人は話をうやむやにするために、ふたりの話を先にさせようとしているのだろうか?


「それはまた後にしよう。まず一番最優先事項から話をするべきだろう?」


父は鋭い視線でイメルダ夫人を見る。


「う……」


夫人は小さく呻くと、俯いた。そんな夫人に対し、フィオナは冷静に座っている。ただ父の隣に座る男性が気になるのか、時々視線を送っている。


そのアンリ氏の方は、どこか疲れ切った様子だった。着ている服もお世辞にも立派な物とは言えない。……一体、今までどのような生活をしていたのだろう。


すると、父がおもむろに話し始めた。


「ここにいる人物、アンリ・ポートマンは私の学生時代のクラスメイトで子爵家出身だった。当然それくらいのことは知っているだろう? イメルダ」


「……」


父に名指しされるも、夫人は口を閉ざしている。ただ……その身体は小刻みに震えていた。

その様子を流石に不審に思ったのか、見かねた様子でフィオナが夫人に声を掛けた。


「お母様? 先程から様子が変よ? 一体どうしてしまったの? あの方のことをご存知なのでしょう?」


しかし、無言の夫人。


「そうか……やはり、何も知らなかったのか。けど、まさか……本当に計画を実行していたとは思わなかった……」


答えない夫人の代わりにアンリ氏が口を開いた。その声も何処か疲れているように感じられる。


「え……? それは一体どういうことですか?」


フィオナがアンリ氏を見つめた。


「初めまして、フィオナ。俺は君の父親だ。……本当に俺に良く似ているな」


「え……?」


その言葉にフィオナがポカンとした表情を浮かべる。


「あ、あの……あなたが私の父親……ですか……?」


「ああ、そうだ」


頷くアンリ氏にイメルダ夫人がヒステリックに叫んだ。


「やめなさい! アンリ!」


「お母様、一体どういうことなのですか! あの方の話は本当ですか!?」


興奮したフィオナが乱暴に席を立ち上がった。


「フィオナ、あんな男の話など気にすることは無いわ。いえ、聞いては駄目よ!」


夫人がフィオナの腕を必死で掴む。


「離して!」


フィオナはその腕を振り払うと、今度は父を見た。


「お父様! 嘘ですよね!? 私の……私の父は……お父様ですよね!?」


「やはりな……見れば見るほど、アンリに良く似ているじゃないか? そう思うだろう? アンリ」


フィオナにではなく、アンリ氏に声を掛ける父。


「ああ、自分でもそう思う……」


「そ、そんな……」


頷くアンリ氏の言葉に青ざめるフィオナ。


「フィオナ、今までお前は私のことを父親だと思っていただろうが……それはイメルダが吹き込んだ真っ赤な嘘だ。血の繋がりなど全く無い。本当の父親は、アンリだ」


「……」


フィオナは父の言葉が余程ショックだったのか、無言でソファにドサリと座った。その様子を見たイメルダ夫人がヒステリックに叫ぶ。


「あなた! どうしてそんな残酷なことを平気でフィオナに言うの! 十八年間面倒を見てきた娘を! 大体……何故、いまさら貴方が現れたのよ!」


そして乱暴な手付きで、アンリ氏を指さした。


「……仕方ないだろう? 今まで世間とは切り離された生活をしていたからな……。まさか、こんな状況になっているなんて知りもしなかったのだから」


アンリ氏はどこか投げやりな様子で肩をすくめた。


「え……? 一体どういうことなの……?」


「アンリは賭博に横領、詐欺罪でずっと刑務所に服役していた。本当に探し出すのに苦労したよ……何しろ爵位も没収されていたのだから。ようやく見つけた彼を私が保釈金を支払って自由の身にさせたのだ。真実を明らかにすることを条件にな」


父は感情の伴わない目でイメルダ夫人に告げた。


「え……?」


あまりにも衝撃的な話で、思わず私の口から言葉が漏れる。


「なるほど……これは中々興味深い話だ」


今まで黙ってことの成り行きを見舞っていたレオナルドの口元に笑みが浮かぶ。


「ああ、俺もそう思うよ」


シオンさんもどこか楽しそうだった。その言葉にイメルダ夫人が怒りを顕にする。


「な、何よ!! 失礼な人たちね! 大体仮にあの男がフィオナの本当の父親だとしても、私はカルディナ伯爵家の夫人なのよ! 私たちは戸籍上、正式な家族なのだから!」


すると……


「伯爵夫人? 正式な家族だと……? 笑わせるな」


父が怒気の混じった声でイメルダ夫人を睨みつけた――

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