15 イメルダの罪と末路 4
「全くむしゃくしゃするわ……」
この夜、私は行きつけの店でひとりアルコールを飲んでいた。このイライラの原因は言うまでもない。フランクとルクレチアのせいだ。
今日、私は偶然ふたりが仲睦まじげに町で買い物をしている姿を見つけてしまった。フランクはルクレチアに優しげに笑いかけていた。私には一度だってあんな笑顔を向けたことはなかったのに……!
「私のほうがあんな女よりずっと綺麗なのよ! それなのに……どうしてなのよ!」
ぐいっと煽るようにカウンターでアルコールを飲んでいると、ふいに声を掛けられた。
「ひとりで飲んでいるのかい? よかったら俺と一緒に飲まないか?」
「え……?」
ぼんやりした顔で見上げると、何処かで見たことのある青年だった。相手もそれに気づいたのだろう。
「あれ……君、何処かで見たことあるな……あ! 思い出した! イメルダじゃないか!」
「え……? まさか、アンリ?」
彼は高校時代の同級生のアンリ・ポートマンだったのだ。
「そう、俺だ。アンリだよ。しかし、こんな偶然あるんだな。たまたま仕事の関係でこっちに来ていたんだけど、まさかイメルダに再会するなんて」
「ええ、そうね。それじゃ一緒に飲みましょう。丁度誰か話し相手が欲しかったのよ」
こうして意気投合した私とアンリはお酒を飲み……酔に任せて関係を持ってしまった。そしてそのことに責任を感じたアンリは私に連絡先を渡し、何かあったときは連絡を入れてくれと言って去っていったのだった。
「ふん、意外と律儀なところがあるのね」
このときの私は何も考えずにアンリの連絡先を受け取った。それが後に意外な形で功をなすとは思いもせずに――
****
アンリと再会して一ヶ月半が経過していた。この頃の私は月の物が止まっていたので不安を感じていた。
まさか、たった一度の過ちアンリの子供を宿してしまったのだろうか……?
何度か彼に連絡を入れようとしたが、その度に思いとどまった。
もし仮に本当に子供が出来てしまっていたとしても私はフランクでなければいやだった。結婚していようがなんだろうが、そんなことは関係ない。
「大丈夫、たまたま遅れているだけよ。それにもうすぐ同窓会が開催される。アンリも同窓会に参加すると言っていたからその時に話をすればいいわ」
私は無理に自分に言い聞かせ……不安な気持ちのまま、同窓会を迎えた――
****
――同窓会当日
私はドレスアップして、会場であるホテルに張り切ってやってきた。
これをきっかけにまたフランクと話すきっかけを作り、以前のように親しい関係になるのだ。
アンリとの話は二の次だ。
それなのに――
「ねぇ、フランク……」
会場で親しげに友人たちを話をしているフランクに近づくと、彼は露骨に嫌な顔を浮かべる。そしてまるで彼を守るかのように友人たちが私に言ったのだ。
「イメルダ、今男同士で話をしているんだ。遠慮してくれないか?」
「そうそう、フランクの新婚生活の話を聞いているんだよ」
「……」
肝心のフランクは私と目を合わそうともしない。その態度にカッと頭に血が上る。
「もういいわ!」
イライラした気持で彼らから離れ、ひとり会場内で佇む私。……考えてみれば私には親しい友人はいなかった。完全に浮いた存在になっている。
「……来なければ良かったかしら……」
ため息をついたとき、アンリが人混みをかき分けてこちらへ近づいてくる姿が見えた。
「良かった! イメルダに会えて! それで……その後、大丈夫だったか?」
心配そうに尋ねてくるアンリ。……なるほど、そういうことか。
「実は……子供が出来てしまったかもしれないわ」
「な、何だって! そ、そんな……!」
青ざめるアンリを見て私は素晴らしい考えが浮かんだ。そうだ……あの手がある!
「ねぇ、アンリ。私に良い考えがあるのだけど聞いてくれる? うまくいけばお互いに取って利益があるのよ?」
「り、利益……?」
ゴクリと息を呑む彼に、私はある計画を提案した。
フランクを酔わせ、あたかも私と関係があったかのように見せかける計画を。
責任を負いたくないアンリは、私の計画に乗り……実行された。
翌朝、私と同じベッドで目覚めたフランクを騙すことなど容易だった。
フランクは責任を取り、私の要求を全て飲むことを承諾したのだった――
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