16 イメルダの罪と末路 5
十カ月後――
私は無事に女の子を出産した。その子はとても可愛らしく、金色の髪は私にそっくりだった。
子供の名はフィオナと名付けた。何しろ雪のように真っ白な肌をしているのだから。
この名にふさわしく、きっと将来は美しく成長するに違いない。
私の出産を最後まで喜ぶことの無かったフランク。でも、こんなに可愛い赤子なのだからきっと彼も喜んで受け入れてくれるに違いない。
私はそう、信じて疑わなかった。
それなのに……
「全く面白くないわ。まさか、ルクレチアが私より半月早く出産するなんて……」
「ホギャア! ホギャア!」
「ああ、よしよし。泣かないで頂戴}
イライラする気持ちで泣いているフィオナを抱き上げてあやしていると、父が仕事から帰宅してきた。
「ただいま、イメルダ」
「お帰りなさい」
ただでさえフィオナが泣いてうるさいのに、鬱陶しい父が帰宅してきた。
「おやおや、イメルダはまたフィオナを泣かせているのかい?」
その言葉に私の苛立ちが募る。
「何言ってるのよ! この子が勝手に泣いているのよ! それよりもいつまでこの家にいるつもりなの? フィオナが生まれてこの家は手狭になったのだから、お父さんは何処か他所で暮らしてちょうだいよ!」
「またその話かい……? 今住むところを探しているから、もう少し待ってもらえないだろうか? 仕事をしながら新居を探すのは中々大変なのだよ」
オロオロしながら弁明する父。
「そんなこと言って、いつまでも居座るつもりじゃないでしょうね! 誰のお陰で今までこの家で暮らせたと思っているのよ!」
私の怒鳴り声にますますフィオナの泣き声が大きくなる。
「わ、分かったよ……もう少し待っておくれ。必ず出ていくから」
「分かればいいのよ。それよりあの屋敷の方はどうなの?」
「ああ、ルクレチア様は出産後でまだあまり体力は回復されていないけど……夫婦仲は円満だよ」
「そうなのね……私はこんな小さな家で一人、子育てに追われているっていうのに……あの女は幸せに暮らしているのね……」
ふたりに対する憎悪が込み上げてくる。
「イメルダ……またそんな言い方をして……」
「はあ〜……あの女がいるから、私はいつまでたっても日陰者だわ。本来ならこんなところに身を置くべき立場じゃないのに。どうにかならないかしら……? 取り敢えず、私のところにも顔を出すようにフランクに言ってちょうだいよ!」
「わ、分かったよ……」
怯えた表情で頷く父。
そして、数日後――
父は新居を見つけてこの家を出ていった。そして、フランクが初めて我が家を訪ねてきたのだ。
「イメルダ……今まで顔を出せずにすまなかった。妻の体調があまり良くなかったものだから」
「ええ、父から話は聞いて知っているわ。ほら、それより私達の子供を見て頂戴よ。かわいいでしょう?」
腕の中ですやすや眠るフィオナをフランクが覗き込む。
「……何だか私に似ていない気がする……」
その言葉にドキリとする。
「何言ってるのよ! どうしてそんな酷いこと言えるの!? 今まで一度もこの家に様子を見に来たことも無かったくせに!」
「わ、悪かった。すまない、そんなつもりで言ったわけではないんだ。きっと、君に似たのだろうな?」
引きつった笑みを浮かべるフランク。大丈夫、絶対にバレるはずはない。アンリと私の接点を知るはずはないのだから。
「そう思うなら、これから定期的にこの家にもちゃんと来るのよ? 仮にもフィオナはあなたの娘なのだから」
「あ、ああ。分かったよ。この子も……私の娘だからな……」
こうして、この日から定期的にフランクはこの家を訪ねてくるようになった。
ルクレチアが亡くなるまで――
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