17 誘う理由

 食事を終えた帰りの馬車の中、レオナルドが尋ねてきた。


「レティシア、あの店の料理はどうだった?」


「はい、とても美味しかったです。そう言えば、初めてレオナルド様に連れて行っていただいたお店も美味しかったです」


「そうか? それなら良かった。でも、まだまだ料理が美味しい店は沢山ある。何しろアネモネ島は観光島だからな。今度はまた別の店に食事に行こう」


レオナルドは笑顔になる。


「はい、ですが……」


「まだ、お金のことを気にしているのか?」


「そうです。それにレオナルド様はお忙しい方ですし……わざわざ私に付き合って頂くのは申し訳なくて」


「そのことなのだが……実は……これは祖父母の意思でもあるんだ」


「え? おじい様とおばあ様の……?」


分からない、一体どういうことなのだろう?


「ああ。折角アネモネ島に来たのだから、レティシアを色々な場所に案内してあげてくれと言われているんだ。……そのためのお金も用意されている」


どこか躊躇いがちにレオナルドが説明する。


「そうだったのですね? おじい様とおばあ様の考えだったのですね?」


「そうだ。祖父は引退したとはいえ、まだ仕事も出来る。俺が不在の時は今も代わりに仕事をしているんだ。だから、遠慮する必要はない。……むしろ、遠慮しないで貰いたい」


「分かりました、そう言うことでしたらお願いします。それで、話は変わりますがレオナルド様は何のゼミに所属しているのですか?」


「俺は経営学のゼミに入っている」


「それでは、先程会った方達もですね? まさか女性で経営学のゼミに入っているなんて驚きです」


「彼女たちはいずれ女性起業家になりたいと話していたからな」


「すごいですね。女性で起業家を目指すなんて」


私にはとても考えられない話だった。それなら、シオンさんはどうなのだろう?


「あの、それではシオンさんはゼミに入っているのですか?」


「シオンは……薬草学のゼミに所属している」


「薬草学……? そのゼミは薬理学部の学生で無くても入れますか?」


植物が好きな私にはとても興味深いゼミだ。それに植物のことについて博識なシオンさんともっと話がしたい。


「レティシアは薬草学のゼミに入りたいのか?」


「はい、そうです」


「……シオンがいるからか?」


「それもありますし、私ももっと植物のことについて知りたいので。……薬草の知識があれば、母を亡くさずに済んだかもしれませんし…‥」


すると、レオナルドがハッとした表情を浮かべる。


「そうだったな、レティシアの母親は毒草のせいで……変なことを口走ってすまなかった」


「いえ、大丈夫です」


何か変なことをレオナルドは口にしただろうか? だが、わざわざ尋ねるには何だか気が引けた。

でもシオンさんのことを口にしたら、何故か急に会いたくなってきた。


「シオンさん……早くアネモネ島に戻ってこれると良いですね」


「……ああ、そうだな」


レオナルドはどこか寂しそうに笑った――

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