15話 見つめていた人
あの後――
カサンドラさんが去ってから、私はすべての事情をノエルに話すことにした。
私がこの島にやってきた理由と、大学に入学するまでの経緯を。
とても長い話しだったけれど、ノエルはじっと私の話を黙って聞いてくれた。
全ての話を終えると、ノエルはため息をついた。
「……そう、そんな事情があったのね……」
「ごめんなさい。ノエル、私別に騙そうと思ったわけじゃなかったの」
「何言ってるの? 騙されたなんて少しも思っていないわ。むしろ、そんな事情……誰だって隠しておきたいと思うはずよ。なのに、レティシアは話してくれたじゃない」
「ノエル……」
「それにしてもカサンドラって人は酷いわね。あなたのお兄さんの身辺調査をするなんて。真の貴族じゃないからって、それがどうしたって言うのよ。だって、今は領主として頑張っているのでしょう? 大体、『アネモネ』島のグレンジャー家と言えば、かなりの名家として有名なのに」
「そうね……それにレオナルド様はとても優秀な方だし……」
すると、ノエルがじっと私を見つめてくる。
「ねぇ。レティシア、ひょっとしてレオナルド様って……あなたのことを……」
「何? レオナルド様がどうかした?」
そこまで尋ねるとノエルは笑顔で首を振った。
「ううん。なんでもないわ。ところで、今日はレオナルド様に会っているの?」
「いいえ、会えていないわ……。もしかして大学に来ていないのかしら……」
けれどカサンドラさんを捜し出して、レオナルドが大学に来ているのか聞くのは気が引けた。
ましてや、あんな言葉を耳元で囁かれれば尚さらだ。
「大丈夫? レティシア、顔色が悪いわよ?」
「だ……大丈夫よ」
だけど、自分でも声が震えていることが分かった。
「だったら、授業が終わったらグレンジャー家に行ったほうが良いんじゃないの?」
「そうね、そうするわ」
私はノエルの言葉に頷いた――
****
――午後4時
全ての授業が終わったので急いで帰り支度を済ませると、隣の席のノエルに声をかけた。
「ごめんなさい、ノエル。急いでいるから先に帰るわね?」
「ええ、そうね。早く帰ってレオナルド様と話したほうがいいわ、また明日ね」
「ええ。また明日」
別れの挨拶をすると、私は急ぎ足で自転車乗り場へ向かった。
****
「……え?」
自転車を止めておいた場所へ行くと、見知らぬ女性が私の自転車をじっと見つめていた。
輝くような金色の髪に、見るからに高級そうな服を着た後ろ姿の女性はどこかフィオナを連想させる。
「ま、まさかフィオナ……?」
口の中で小さく呟く。
でも、フィオナがこんなところにいるはずはない。第一、彼女は今修道院にいるはずだ。
だとしたら一体誰なのだろう……? 胸騒ぎを感じつつ、ゆっくり近づくと少し離れた場所から女性に声をかけた。
「あの……すみません」
「え?」
振り向いた女性は、やはりフィオナでは無い。
彼女は緑色の瞳がとても美しい女性だった。
「その自転車は私のものですが……どうかしましたか?」
「まぁ、あなたの自転車だったのですか? 赤い自転車でとても素敵だったので、思わず見入ってしまったのです。女性なのに自転車に乗れるなんて素晴らしいですね。大学まで自転車で通われているのですか?」
笑顔で話しかけてくる女性は、私とほぼ変わらぬ年齢に見えた。もしかしてここの学生なのだろうか?
「はい、新入生です」
すると女性は何故か積極的に話しかけてきた。
「そうだったのですか。実は私の婚約者もこの大学に通っているのです。今日は彼が大学に用事があって、来なければならなかったので無理を言ってついてきてしまいました。どうしても彼が通っていた大学を一目見ておきたかったものですから」
「そうだったのですか? でもお相手の方は……? 一緒ではないのですか?」
「はい。今は学長とお話していると頃だと思います。私は部外者ですので、立ち会えません。なので、少し大学構内を見て回っていたところなのです」
「だから、お一人だったのですね……。すみません、急ぎの用事があるので、そろそろ帰りますね?」
「いえ。こちらこそ図々しくお話してしまい、申し訳ございませんでした。どのような方がこの自転車に乗っているのだろうと思ってつい……」
女性は頬を赤らめる。
その姿は控えめで、好感が持てた。
「それでは失礼します」
「はい、お気をつけて」
女性は手を振り、私は彼女に見送られながら帰路についた――
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