10 迎えに来た朝

――翌日


 シオンさんの件で、殆眠ることが出来なかった。


「……とうとう朝になってしまったわ」


ポツリとつぶやき、朝の支度をするためにベッドから身体を起こした。



「クマが出来てる……」


洗面台で鏡を見た時に、クマが出来ていることに気付いた。


「こんな顔でレオナルド様の前に現れたら、心配されてしまいそうだわ」


顔を洗って、もう一度鏡を見てもやはりクマが目立っている。そこで普段はあまりしない化粧をしてみると、うまい具合にクマを隠すことが出来た。


「これなら大丈夫ね」


いつもなら朝食の準備をするところだが、とてもではないが食欲などなかった。


「お茶だけ飲んでいきましょう」


台所でお湯を沸かし、ハーブティーを淹れると室内に良い香りが漂ってきた。


「あ……このハーブティーは」


何気なく手にとって選んだハーブだったが、思い出した。これは以前、シオンさんが私にプレゼントしてくれた自作のハーブティだ。


「シオンさん……」


再び、暗い気持ちが押し寄せてくる。

とてもではないが今日は大学へ行く気力が出なかった。けれどもレオナルドが来ることになっているので休むわけにはいかない。

レオナルドを心配させないためにも、大学へ行かなくては。


私はハーブティーを飲みながら、レオナルドが迎えに来るのを待つことにした。




――8時半


 私は家の外に出て、レオナルドの迎えを待っていた。


「今日も良い天気ね」


青空を見つめながらポツリと呟く。

今、シオンさんは元気にしているのだろうか? 2人で選んだゼラニウムは今、どうなっているのだろう?


そんな事を考えていると、馬車がこちらへ近づいてくる様子が見えた。


「きっとレオナルド様だわ」


そのまま様子を見ていると馬車は目の前の道で停車し、扉が開かれてレオナルドが降りてきた。


「おはよう、レティ。外で待っていてくれたのか?」


レオナルドが小走りで駆けつけてきた。


「はい、支度が早く終わったので外でお待ちしていました」


「そうか……」


何故かレオナルドは私をじっと見つめたまま動かない。


「あの……? レオナルド様?」


「大丈夫だったか? もしかすると、あまり眠れなかったんじゃないか?」


心配そうに尋ねてくる。


「そ、そんなことはありませんけど」


クマが出来ていることに気づかれてしまっただろうか? 思わずうつむくと、レオナルドの口から以外な言葉が出てきた。


「レティ、今日は2人で大学をサボらないか?」


「え? サボる?」


「ああ。天気もいいことだし、たまにはそんな日があってもいいんじゃないか?」


まさか、私が今日は大学へ行く気力がないことを見抜かれたのだろうか?

だけど……。


「突然大学を休んだりしたら、カサンドラさんが心配するのではありませんか?」


「カサンドラが? 大丈夫、もし心配していたならその時はきちんと彼女に穴埋めするつもりだ。実は前から連れていきたい場所があったんだ。そこへ行ってみよう」


レオナルドが笑顔で誘ってくる。

きっと、私を元気づけようとしてくれているのだ。折角私に気を使ってくれているのに、断るのは気が引けた。


「そうですね。たまにはこんな日があってもいいかもしれませんね?」


「よし、それじゃ今日は楽しもう。それじゃ、行こうか? レティ」


レオナルドが手を差し出してきたので、その手に触れる。


すると思いがけない強さで、手を握りしめられるのだった――


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