3 目撃した光景

 憂鬱な気持ちで校舎を出ると、私はトボトボと辻馬車乗り場へ向かった。


私達の通う学園は町の中心部にある。正門を抜ければ、すぐに広々とした大通りとなっており、様々な店が整然と立ち並んでいる。


辻馬車乗り場は学園から徒歩五分ほどの近距離にある。


「今頃、ふたりはお父様の誕生プレゼントを探しているのでしょうね……」


こんなに気になるなら、ふたりについていけば良かっただろうか……

でも、邪魔に思われる方がもっと堪える。


「セブラン……」


思わず名前を呟いた時、前方に紳士服を取り扱う洋品店が目に止まった。

その店は私が父のカフスボタンを購入した店だ。何気なくその店を眺めていた時、店の前に見慣れた馬車が止まっていることに気づいて息を呑んだ。


「あ……あれは……!」


その馬車はセブランが乗る馬車だった。


「ま、まさか……あの店で買い物を……」


ゆっくりその店に近づき、窓から覗き込むと、仲良さそうに品物を選んでいるセブランとフィオナの姿が見えた。


「……!」


思わず自分の足が震える。


――そのとき


「レティシア?」


背後で声が聞こえ、驚いて振り向くと自転車にまたがったイザークの姿があった。


「イ、イザーク……どうして、こ、ここに……」


自分の声が震える。


「それはこっちの台詞だ。俺の家はこの通りにあるからな。それよりこんなところで何してたんだ? 顔色が真っ青じゃないか。大丈夫なのか?」


イザークは自転車から降りるとスタンドを降ろした。


「あの、それは……」


「この店がどうかしたのか?」


「あ! ま、待って!」


しかし、止めるまもなくイザークは窓から覗き込み……眉をしかめた。


「あれは……セブランとフィオナじゃないか。一体どういうことだ? 何であのふたりが一緒に……」


「ふ、ふたりは……お父様の誕生プレゼントを買いに来たのよ」


「そうなのか? だったら何故一緒に……」


けれどイザークは言葉を切った。


「……大丈夫か? 随分震えているぞ?」


その声にはどこか労りを感じる。


「一体……何を買ったのかしら……」


無意識のうちに言葉が口をついて出る。


「……分かった。俺が確認してくる。レティシア、この店の2つある先に本屋がある。そこで待ってろ」


「え?」


イザークは私が返事をする前に店の中へと入ってしまった。


「イザーク……」


どうしよう……けれど、いつまでもここにいればふたりが店から出てきて鉢合わせをしてしまうかもしれない。


「本屋に行くしかないわね……」


私はため息をつくと、イザークに指定された本屋へ向かった――




****



「イザーク……まだかしら……」


最近話題の小説を手に取り、パラパラとめくりながら何度目かのため息を付いた時……


「お待たせ」


背後から声をかけられて振り向くと、背の高いイザークが私を見下ろしていた。


「あ……イザーク」


「カフスボタンを買っていたぞ? あのふたり」


「え! カフスボタンを……! そ、そんな……!」


「どうしたんだ? 何故そんなに驚くんだ?」


「カ、カフスボタンは……私も買っているの。今朝、馬車で尋ねられたから……」


その言葉でイザークは理解したのだろう。


「何だって? それは本当の話なのか?」


「ええ……」


「分かった。行こう」


「え?」


その言葉に顔を上げた。


「行くって……どこへ?」


「さっきの店だ」


「そんな! 行けるはず無いじゃない!」


店の中にも関わらず、大きな声を上げてしまった。


「だけど、フィオナはカフスボタンを買ったんだろう? どう考えても嫌がらせに決まってるじゃないか。だったら別の品物を買えばいい。相手の裏をかいてやるんだ」


「だけど、あの店には……!」


激しく頭を振る私の肩を、イザークは掴んできた。


「大丈夫だ。あのふたりは馬車に乗って帰っていった」


「え……帰った……?」


「そうだ。だから今から行くぞ」


そしてイザークは私の手首を握りしめると、店の外へと連れ出した――

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