14 次の依頼

「この店が、レティシアの話していた手芸店なのか?」


店の前で辻馬車を降りると、レオナルドが尋ねてきた。


「はい、そうです。最近オープンしたばかりみたいです」


「うん、確かこの店は空き店舗だったかもしれないな。それじゃ、早速入ってみよう」


レオナルドが扉を押して店内へと入ったので、私も後に続いた。


「いらっしゃいませ」


店の中に入ると、早速奥のカウンターから声をかけられた。


「こんにちは。ヘレンさん」


「あら、レティシアさんではありませんか。あ……もしかすると……」


「はい、お預かりしたコースターに刺繍をしてみました」


ショルダーバッグからコースターを取り出すと、カウンターの上に置いた。すると、たちまちヘレンさんが目を見開く。


「まぁ……! なんて素敵なのでしょう。この店の雰囲気にぴったりだわ!」


海をモチーフにした店内。

そこで私もコースターの刺繍には水色系の色を使って貝の刺繍をしたのだ。


「本当ですか? ありがとうございます」


ヘレンさんに褒められて嬉しくなり、笑みが浮かぶ。


「ええ、とても気に入りました。このコースター販売させていただきます。勿論手間賃はお支払いいたしますので」


「でも……本当によろしいのですか?」


私はただ趣味の刺繍をコースターに刺しただけなのに、お金を貰っても良いのか気が引けた。


「ええ、当然のことです。それで、お願いがあるのですが……また刺繍をしていただけませんか? この店の商品をレティシアさんの刺繍で、もっと魅力的な物にしたいのです」


「え!?」


ヘレンさんの思いがけない提案に驚いて言葉がうまく出てこない。

すると、今まで黙ってことの成り行きを背後で見守っていたレオナルドが声をかけてきた。


「いいじゃないか。オーナーがそう言ってるのだから。ありがたくその申し入れを受け入れるべきだと俺は思うけどな」


「レオナルド様……」


するとヘレンさんがレオナルドに視線を移し、私に尋ねてきた。


「あの……先程から気になっていたのですが、こちらの方は……?」


「ええと、こちらの方は……」


複雑な関係なのでどのように説明しようか思案していると、レオナルドが口を開いた。


「はじめまして。俺はレオナルドと言います。レティシアは俺の大切な人です」


「え? レオナルド様?」


まるで勘違いされそうな台詞を口にするレオナルドに思わず焦る。


「まぁ、やはりそうだったのですね。先程からお似合いの2人だと思っていたのですよ」


「ありがとうございます、これからもレティシアをどうかよろしくお願いします」


「いいえ、こちらこそどうぞよろしくお願いいたします」


挨拶を交わす2人を前に、とてもではないが誤解を解く雰囲気では無かった。


その後……


今度もまた海をイメージしたワンポイントの刺繍をしてもらいたいとお願いされ、5枚の真っ白なハンカチを託された。


私はヘレンさんに1週間以内に刺繍を仕上げて持ってくると約束し、レオナルドと店を後にした――

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