4-10 断罪 5

「な、何よ……そんなに大きな声で怒鳴ることないでしょう! しかもそんな乱暴な言い方するなんて!」


フィオナはアンリ氏を睨みつける。


「先程から喚いているお前にそんなことを言う資格はない! 大体、誰に対してそのような生意気な口を叩けると思っているのだ!? 仮にも相手は伯爵家なのだぞ!」


「うるさいわね! 今更のこのこ私の前に現れておいて、父親面するつもりなの!?」


「ああ、そうだ……確かに俺はお前に父親らしいことを何一つやっていない。何しろ、罪を犯して……今まで服役していたからな。まさかイメルダがフランクを父親だと偽っていたなんて知りもしなかった」


アンリ氏がイメルダ夫人を睨みつけると、気まずそうに夫人は視線をそらせた。


「フランクは二年前からお前が自分の娘ではないことに気付いていた。だがお前をこの屋敷に住まわせ、面倒をみていたのだ! それなのに彼の娘を貶めるような真似ばかりしおって……感謝どころか恩を仇で返すとは! 身の程をわきまえろ!」


その言葉に、あたりは水を打ったようにシンと静まり返る。イメルダ夫人は俯き、父は神妙な顔でアンリ氏を見つめている、


「う……」


この言葉には流石のフィオナも堪えたのか、目にうっすらと涙を浮かべている。その身体は小刻みに震えていた。



パチパチパチ……


突如レオナルドが手を叩き、全員の視線が彼に集中する。


「これは驚きました。確かにあなたの言う通りです。フィオナは自分の身の程を知らずに、伯爵令嬢であるレティシアの婚約者に恋心を抱いて奪おうとした。挙げ句に彼女がこの屋敷にいずらくなるように仕向けて、追い払ったのですから」


その言葉はどこかフィオナを挑発しているように聞こえた。すると、案の定フィオナが素早く反応する。


「だからさっきも言ったでしょう! あんな男、少しも好みじゃないって! レティシアの婚約者じゃなければ、こっちから願い下げよ!」


この言葉には流石におじ様もおば様も唖然とした表情でフィオナを見つめる。イメルダ夫人は頭を押さえ、父とアンリ氏は怒りの表情を浮かべていた。


「フィ、フィオナ……」


一方のセブランは青ざめた顔でフィオナを見つめていた。


「何よ! 文句あるの!?」


フィオナに睨まれ、セブランは悲しみの表情を浮かべ……俯いた。


セブラン……やっぱり、あなたは本当にフィオナのことが好きだったのね?


以前の私だったら、セブランの様子に酷く傷ついていただろう。けれど、彼への思いを捨て去った今となっては、自分の胸が痛むようなことはなかった。


ただ、あるのはセブランへの同情だった。

可哀想な人。好きな相手からあんな言い方をされるなんて……


「それに私は追い払ってなんかいない! 勝手にここを出ていったのはレティシアの方でしょう!? いい加減なこと言わないでよ!」


ヒステリックに叫んだフィオナは私に怒りの眼差しを向けた。


すると――


「君は本当にどうしようもない人だな……」


シオンさんが口を開いた。


「レティシアも、そこの彼も伯爵家の者だということを理解していないのか? 自分よりもずっと身分の高い相手を愚弄するなんて……不敬罪に問われる覚悟は出来ているんだろうね?」


「ふ、不敬罪ですって……?」


そこで初めてフィオナの顔が青ざめる。


「そうだよ。不敬罪に問われれば、君の父親のように刑務所に入ることになるだろうね。ここにいる全員が証人だ。これ以上罪を重ねたくないなら、黙ることだ」


「……」


この言葉に、ついにフィオナは観念したかのように口を閉ざした。その様子に満足そうに頷くシオンさん。


「これでやっと静かになりましたね。それではいよいよ次の本題に入りませんか?」


そして次に、私達を見渡し……彼はニコリと笑みを浮かべた――


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