4-9 断罪 4

「マグワイア伯爵。お待たせしてしまい、申し訳ございませんでした。どうぞ掛けて下さい」


父は傍らに置かれた長ソファを勧めた。


「失礼します……」


神妙の面持ちで室内に入って来るおじ様。そしてその後ろからセブランとおば様が続き、ソファに座る。途端におじ様は肩を震わせて父に謝罪の言葉を述べてきた。


「カルディナ伯爵! 大変申し訳ございませんでした! 私どもの息子が……とんでもない真似をしてしまって……!」


「本当に……お詫びの言葉もありません」


おば様は泣いているのだろうか? 目頭をハンカチで押さえている。


「……申し訳ございません……」


セブランは今までに見たことが無い程、やつれた姿で父に謝罪し……次にフィオナを見た。けれど、セブランの視線に気づいたフィオナはそっぽを向いてしまった。


フィオナの態度を見たセブランは悲しそうに俯き……そんな彼を私は複雑な気持ちで見つめていた。


セブラン……


あれ程、フィオナは大きな声で騒いでいたのだ。恐らく、廊下にまで会話の内容は筒抜けだったに違いない。


「彼がセブランか? レティシアを蔑ろにして、あの女と親しくしていた?」


レオナルドは軽蔑した眼差しでセブランを見る。その言葉がセブランの耳にも届いた

だろう。彼はハッとした顔でこちらを見て……すぐに気まずそうに目をそらせてしまった。


「それでは話を進めさせていただきます。マグワイア伯爵。もう、おおよその事情は察して頂いているでしょうが……まずはこちらの用件を先に伝えさせて下さい」


父がおもむろに口を開く。


「は、はい。どうぞ……」


おじ様はすっかり恐縮した様子で返事をすると、父は告げた。


「セブランとレティシアの婚約を破棄させて頂きます。よろしいですね?」


その言葉にセブランの肩がビクリと跳ね……一瞬私を見ると目を伏せてしまった。


「はい、勿論です……婚約破棄は当然のことです。お詫びの言葉も見つかりません。レティシアがいながら……愚息はあんな娘にうつつを抜かしたのですから」


おじ様がフィオナに軽蔑の目を向ける。


「レティ……あなたを沢山傷つけてしまって……ほ、本当にごめんなさい……」


おば様が目に涙を浮かべながら私に謝ってきた。


「おば様……」


すると、フィオナが叫んだ。


「な、何よ! 何故皆で私を責めてレティシアを庇うのよ! 私は少しも悪くないわ! 悪いのは魅力が無いレティシアと、私に騙されたセブランでしょう!」


フィオナの発言が信じられず、私は目を見張った。もはやイメルダ夫人は口を挟むことすら出来ないのか、唖然とした顔でフィオナを見つめている。


その時、レオナルドが口を開いた。


「君……先ほどから聞いていれば随分失礼なことばかり言っているようだが……いいか? これ以上レティシアを侮辱するなら、こちらも考えがあるからな」


その声には怒りが混じっている。


「レオナルド様……」


すると、レオナルドが私の方を向いて笑みを浮かべた。


「大丈夫だ、レティシアには何の落ち度もない。あんな女の言葉など真に受けるな」


「ああ。勿論俺もレオナルドと同意見だ」


シオンさんも頷く。


「な、な、何よ……! 何でレティシアの肩ばかり持つのよ!! あんな平凡な女のどこがいいのよ!」


フィオナは気付いていないのだろうか? ヒステリックに叫べば叫ぶほど……自分の立場が危うくなるということが。


「フィオナ……落ち着いて。もうこれ以上やめようよ。それにレティシアは平凡なんかじゃ……」


ここでようやくセブランがオドオドしたようすでフィオナを咎めた。


「煩いわね! 私に馴れ馴れしく話しかけないでよ!!」


「!」


フィオナに怒鳴られたセブランはうつむいてしまう。その様子を見て私は思った。

セブランは……本当に弱い人だったのだ。だから強引なフィオナを断れなかったのだろうか?


――その時


「黙れ! いい加減にしろ! フィオナ!」


今まで口を閉ざしていたアンリ氏が突然フィオナを怒鳴りつけた――

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