4-8 断罪 3
「フィオナ! 一体何を言い出すの!? あなた……あれほど、セブラン様、セブラン様と言って慕っていたでしょう!?」
イメルダ夫人はオロオロした様子でフィオナの腕を掴んだ。
「離してよ! あんたのそういうところが昔から嫌だったのよ!! 少しも私の気持ちなんか知りもしないで!」
フィオナは乱暴にイメルダ夫人の腕を振り払う。
「フィ、フィオナ……?」
娘の態度の変わりようが余程ショックだったのか、夫人の顔が顔面蒼白になる。
もしかして、イメルダ夫人はフィオナの本性を知らなかったのだろうか?
「私がねぇ、セブランを慕っているふりをしたのは全て、レティシア! あんたに対する当てつけだったのよ! 伯爵令嬢として何不自由なくこの屋敷でずっと幸せに暮らして……挙げ句に婚約者? こっちは妾の娘と言われてどれほどクラスメイトから虐められてきたか……幸せに暮らしてきた、あんたなんかに分からないでしょう!」
私が幸せに暮らしてきた? それこそ誤解だ。けれど、今のフィオナに何を言ってもきっと伝わらないだろう。
「だから、あてつけに奪ってやろうと思ったのよ! あの男、ちょと媚を売っただけで簡単に騙されるんだから。だけどね、私はあんなナヨナヨした男はまるきり好みじゃないのよ! むしろ……そこにいるふたりのほうが余程私の好みのタイプだわ」
フィオナは私の両隣に座るレオナルドとシオンさんを見つめる。
「呆れた女だな」
「全くだ」
ボソリと呟くレオナルドとシオンさんの言葉は興奮しているフィオナの耳には届いていなようだった。
「どうですか? ふたり共。私のほうがレティシアよりもずっと魅力的だと思いませんか?」
あろうことか、フィオナは今度はレオナルドとシオンさんを狙っているようだ。
「あいにく、俺は君のような気の強い女性は全く好みじゃないんだよ。レティシアのように可憐な女性が好みなんだよ」
驚いたことにシオンさんが私を引き合いに出してきた。
「ああ、シオンの言うとおりだ。君よりレティシアの方が余程魅力的だ。それに俺の大切な女性を貶めようとする女性など……こちらから願い下げだ」
冷たく言い放つレオナルド。その言葉にフィオナがヒステリックに叫ぶ。
「な、何ですって! 私の何処がレティシアに劣っているっていうのよ!」
「フィオナ! いい加減にしないか!」
ついに父が声を荒らげた。
「私に指図しないでよ! 本当の父親でもないくせに!」
噛み付いてくるフィオナを無視し、父は先程から扉の前で控えているチャールズさんに声を掛けた。
「もういいだろう、中に入って頂きなさい」
「はい」
チャールズさんは返事をすると、扉を開けた。
「何よ! こんな立て込んでいるときに一体誰が……!」
フィオナは扉を睨みつけ……一瞬で顔色が変わった。
「そ、そんな……」
唇を震わせるフィオナ。
現れたのはセブランと、おじ様におば様だった。
「セ、セブラン様……い、いらっしゃいませ」
引きつった笑みを浮かべながらフィオナはセブランに声を掛ける。けれど、セブランはフィオナを一瞥しただけで、私に視線を移した。
「お帰り、レティシア。戻って来たんだね……」
「セブラン……」
そしてセブランは悲しげに私を見て笑みを浮かべた――
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