3 『リーフ』へ向けて
翌日の午前8時――
荷物の確認をしていると、扉がノックされる音が部屋に響いた。
「あ、きっとレオナルド様だわ」
念の為に、ドアアイから外を覗き込んでみるとレオナルド様と――
「え……? おじい様に……おばあ様?」
何故、ふたりがここに‥‥…? 急いで扉を開けた。
「おはよう、レティシア。迎えに来たよ」
笑顔のレオナルドに続き、祖父が私を抱きしめてきた。
「レティシア。会いたかったぞ」
「おじい様。私もです」
祖父の胸に顔をうずめると、祖母の笑い声が聞こえた。
「何ですか? あなたったら。二日前に会ったばかりじゃありませんか」
私は二日前にグレンジャー家に呼ばれて夕食をご馳走になっていた。
「そうですよ、おじい様」
レオナルドが声をかけてきた。
「う、うるさい! それは……二日も前の話だろう? しかも今日からはまた離れ離れになるというのに……」
祖父は私を抱きしめ、髪を撫でてくる。その大きな、少し節ばった祖父の手が私は大好きだ。
「おじい様、大丈夫です。すぐに戻って来ますから。それまで待っていて下さい」
私は祖父を見上げた。
「そうか? それなら明日には戻ってくるのだな?」
「何を言ってるのですか? おじい様。さすがにそれは無理でしょう? 我々は『リーフ』で片づけなければならないことがあるのですから」
レオナルドが何処か呆れた様子でため息をつく。
「ああ、そんなことは分かっている。あの卑しいメギツネと、その図々しい小娘に制裁を与えるのだろう?」
まさか祖父がイメルダ夫人をメギツネと呼ぶとなんて……思わず苦笑する。
「それよりも、早く行きましょう。シオン様がお待ちなのでしょう?」
祖母が急かした。
「ああ、そうだな。お待たせしてはいけないからな。それでは馬車に乗ろう」
「はい、おじい様」
私たちが乗り込むと、すぐに港へ向けて馬車は走り出した――
****
馬車は時間通り、八時半に港に到着した。
今日もとても良い天気で、青い海にコバルトブルーの海はとても美しい。港には大型蒸気船が一隻停泊している。
あの船がきっと『リーフ』行の船なのだろう。
レオナルドがシオンさんを探しに行っている間、私と祖父母はベンチに座って話しをしていた。
「良いか? レティシア。しっかりと、その無礼な婚約者に婚約破棄を告げてくるのだぞ? 縋り付いてきても、ほだされる事の無いようにな?」
「そうよ、他の女性にうつつを抜かすような男は絶対にいけません」
「はい、分かりました」
祖父母の言葉にまさかセブランに限ってそんなことは無いと思いつつ、私は返事をした。
そのとき――
「レティシア! シオンが見つかったぞ!」
レオナルドが手を振りながら、こちらへやってきた。背後にはシオンさんの姿がある。
「おはようございます、皆さん」
シオンさんが笑みを浮かべて挨拶してくると、祖父母も丁寧に挨拶を返した。
「おはようございます。シオン様」
「どうぞレティシアをよろしくお願いいたします」
「シオンさん。ついてきて下さり、ありがとうございます」
私も祖父母にならって挨拶をしたとき。
ボーッ……
港に蒸気船の汽笛が大きく鳴り響いた。それは乗船の合図だった。
「よし、それでは船に乗ろうか?」
レオナルドが私たちを促す。
「そうだな。乗ろう」
「はい」
返事をすると、私は改めて祖父母を見つめた。
「おじい様、おばあ様。それでは行って参ります」
「ああ、行っておいで」
「気を付けて行きなさいね」
祖父母と交互に抱擁を交わすと、私たちは蒸気船に乗り込んだ。
**
三人でデッキに立つと、祖父母が船を見上げている。それが何だか不思議な感覚だった。
『リーフ』から出航したとき、私はひとりきりだった。けれど、今私の隣にはレオナルドとシオンさんがついている。
そして私たちを見送る祖父母。
私は孤独ではないのだと実感できる。それがすごく嬉しかった。
やがて――
ボーッ……
汽笛が鳴り響き、船がゆっくり動き始めた。
「おじい様ー! おばあ様ー! 行ってきまーす!」
大きな声で手を振ると、驚いた様子で私を見るレオナルドとシオン。
けれど、ふたりは視線を合わせて頷くと大きく手を振り始めた。
私たちを見送る祖父母も手を振って見送ってくれている。こうして私たちは『リーフ』へ向かって旅立った。
そして……驚愕の事実を知ることになる――
※ 次話、イメルダ視点になります
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