4 父からの手紙

「実は……2日前にカルディナ伯爵からレティシア宛に手紙が届いたんだ」


レオナルドが書斎机の引き出しから白い封筒を取り出し、差し出してきた。


「え? お父様から……あ……」


慌てて、自分の口を手の平で隠す。

どうしよう……つい、うっかりレオナルドの前で「お父様」と言ってしまった。

すると、レオナルドがフッと笑う。


「どうしたんだ? まさか俺の前で『お父様』と口にしたから口を押さえたのか?」


「は、はい……」


俯きながら返事をする。


「別にそんなこと気にする必要は無いだろう? どんな関係になろうと、レティシアの父親に間違いは無いのだから」


「そうですね……お手紙、ありがとうございます。でも、まさかグレンジャー家に手紙が届くとは思いませんでした」


受け取りながら首をひねる。


「もしかして、レティシアはこの屋敷に住んでいると思っていたんじゃないのか?」


父は私の現況を何も知らない。詳しいことは何も語らずにアネモネ島に戻ってきたからだ。


「言われてみれば確かにそうかもしれません。まだ私、一度も父に手紙を書いたことが無かったので。あの、それで……」


まさか祖父母にこの手紙の存在を知られてしまっただろうか?

するとレオナルドが私の考えていることに気付いた。


「祖父母のことなら、大丈夫だ。この手紙は俺が直接受け取ったからな。2人はこの手紙のことは何も知らない」


「そうだったのですね……ありがとうございます」


レオナルドに受け取って貰えて良かった。特に祖父は父のことを今も酷く怒っている。父からの手紙が祖父の目に触れれば、気を悪くするに違いない。


手にした封筒はかなり厚みがある。一体何が書かれているのだろう?


気になる……今読んでみたい。


「あの、レオナルド様。それで大切な用というのは……」


「もちろんその手紙を渡すことだ。レティシア、君は遠慮して何か特別なことでもない限りはこの屋敷に来ようとしないだろう?」


「……」


その言葉に、私は何も言えなかった。レオナルドの言う通りだった。グレンジャー家の養子になったとは言え、私は祖父母がよく思わない父の血を引いている。

そのことを考えると、やはりどこか遠慮してしまう自分がいるのは確かだった。


「遠慮なんかする必要は無いぞ? 祖父母は本当にレティシアを大切に思っているんだ。むしろ、もっとこの屋敷に顔を出して貰えないか。……俺たちの為に」


「……ありがとうございます。レオナルド様、それで……今、この場で手紙を読んでも構いませんか?」


父からの初めての手紙。何が書かれているのか気がかりだった。


「ああ、いいとも。俺はここで仕事をしているから遠慮せずに読むといい」


そしてレオナルドはすぐに書類に目を通し始めた。


「ありがとうございます」


お礼を述べると、レオナルドは顔をあげて笑みを浮かべる。


一体、父は何と言ってきているのだろう……? 


ドキドキしながら自分の使用している書斎机に向かうと、早速開封して父の手紙を広げた。


そこには懐かしい父の文字が綴られていた――




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